『ブラックボックス』著者、伊藤詩織さんインタビュー。小学生から性暴力についての教育が必要です。
撮影・千田彩子
「最初、この本を書くつもりはありませんでした。とりあえず日常に戻らなくてはと思っていたので、事件のことは忘れたかった。でも声を上げなくては伝わらないこともある。自分の言葉で正直にしっかり書こうと決めました」
2017年5月、伊藤詩織さんは2年前に知り合いの男性からレイプされたことを実名で公表した。名前や顔を公開してこのようなことを話すのは、日本ではほとんど例がない。本書では、苦学を重ねた学生時代、社会的地位もある加害男性と知り合うきっかけ、ふたりの間でやりとりされたメール、事件当日の様子、相談に行った警察や、産婦人科医の対応などがジャーナリストらしい端的な文章で語られている。
性暴力に遭ったとき、声を上げることができないのはなぜか。それは、誹謗中傷を受けたり、いまの職場で働きづらくなったり、周りとの関係性が揺らいだりといった二次被害を恐れるからだという新聞の統計結果がある。伊藤さんも話せば話すほどバッシングを受け、外出もままならなくなった。
時をほぼ同じくして、昨年秋頃からハリウッドの女優たちが自ら受けた性暴力について語り始め、「#MeToo」という大きな動きとなり全世界に広がっている。
「日本でも性暴力について話す人が出てきたのは良いことですが、アメリカと日本の#Me Tooの違いは、ハリウッドでは社会的な問題として取り上げていますが、日本ではまだまだ個人的な男女間の話にとどまっている点です」
実際、伊藤さんの日本人の友人の中には、#Me Tooの動きに賛同できない、という人もいる。
「男ばかりが責められているように感じられるとか、これくらいのことでなぜ騒ぐのかという声も聞きます」
本書を執筆しながら、どうすれば性暴力について皆がもっと正しい知識を持ち、広く語ることができるのかを考えた。
「恋愛関係になった相手といかに尊重しあって付き合うか、性行為における合意とは何か、小学校の高学年から教育しているオーストラリアのような国もあります。いま日本では性行為の合意年齢は13歳ですが、加害者にも被害者にもならないために、性に関しての教育がもっと必要だと思います」
10年後、この本を読んだ人が、いまの社会では考えられない、と思うくらい性に関して意識が進歩していることが伊藤さんの切なる願いだ。
文藝春秋 1,400円
『クロワッサン』969号より
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