山あいの町で始まっている、共助・共生の試みとは?
撮影・青木和義
「萬」は「円」の代わりではなく、人と人とを繋ぐツール。
藤野の飲食店や小売店の中には、代金の一部を「萬」で支払うことができる店もある。池辺さんの妻・澄(すみ)さんが営む天然酵母パンの店『ス・マートパン』もそのうちの一軒だ。定価350円の黒糖角食パンなら、300円+50萬で買えるという仕組み。「店を始めた頃は自分で食べるためのパンを焼く延長という感覚だったので、お金をもらうことには少し抵抗がありました。その分、地域通貨を使ったやりとりは気が楽なんです」と澄さん。
「商いをしている人に対しては、100%『萬』の支払いだと商売が立ち行かなくなってしまうので、『円』と『萬』を併用します。売る人は商品を地域の中でプロモーションできるし、買う人は、少しだけお得に、しかも顔の見える相手から物を買うことができる。お互いにとってメリットがあり、しかも『円』のお金も外に逃げずに地域の中で回りだす。『萬』と『円』が循環することで、地域の経済が活性化するんです」(池辺さん)
パンと惣菜、いつからか萬を使わない物々交換に。
「萬」が目指すのは「円」の代替ではなく、その役割を補完するものだと言う。
「『円』のやりとりは繋がりを生むというよりむしろ関係がギスギスしたり、分断や格差を生みやすいですよね。だから、『円』にはない、人と人とを繋ぐ機能を『萬』で補うんです。また、メンバーを結びつけている『よろづ』メーリングリストは、ビオ市などのイベント開催時から災害時まで、情報共有ツールとしても活躍します」
『ス・マートパン』の常連・倉林僚さんは、パンと自身がケータリングする手作り惣菜を「萬」でやりとりしていたが、ある時から通帳に書き込まず、直接、物々交換をするようになった。
「『萬』はあくまできっかけ。そこから繋がりが生まれ、地域の暮らしが豊かになることを目指しています」
『クロワッサン』966号より
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