温かな表情が楽しめる器、スリップウエアの窯元を訪ねて。
撮影・小出和弘
大皿で作ったオーブン料理を家族で取り分けて。
作業工程を見学した翌日、山田さん家族の昼食におじゃました。この日の主菜となる料理は、大きめの角皿を使った鶏肉と野菜のオーブン焼き、副菜には楕円の深鉢に盛ったそうめんかぼちゃときゅうりのサラダ。焼締めと呼ばれる釉薬をつけずに高温で焼いた素朴な味わいの器にはパンをのせた。長男で5歳になる宗助くん、次男で5カ月の侑平くんとまだ手のかかる子どもたちがいる麻祐子さんは、
「夫が作る器は耐熱性のものが多いので、下ごしらえだけすれば、あとは簡単に作れるオーブン料理に重宝しています」
この日のメイン料理も暖色系の角皿が、オーブンで焼かれた素材の旨味を引き立てている。
14年前に大阪の日本民芸館でスリップウエア展を見てから、その佇まいや大らかな雰囲気に魅了された山田さん。その後、スリップの本場であるイギリスの工房で1年間の修業も体験。さまざまな技法を学ぶなかで、日常の暮らしにこの器がしっかり根付いているのを肌で感じ取った。
「毎週日曜日はサンデーローストといって、オーブンで焼いた肉料理や付け合わせのヨークシャープディングをスリップウエアの大皿でふるまって、それを銘々が小皿に取り分けて食べるんです。お客がたくさん来ていても、前もって準備しておいたオーブン料理があれば、いつの間にかできているというのはいいなと思いましたね。日本に戻ってからも、オーブン皿は市販のレンジに入るサイズで作るようにしたり、取り分けがしやすい深めの皿を考えたりします」
角皿に入った鶏肉と地元で穫れたかぼちゃ、なす、ピーマン、玉ねぎなど色とりどりの野菜を、麻祐子さんが宗助くんに用意した取り皿(昨日の新作模様の器!)に移していると、「にんじんも入れてね!」と元気な声が響く。麻祐子さんも笑顔で応え、宗助くんの皿に加える。家族での賑やかな食事風景に山田さんのスリップウエアが馴染んでいる。
「器は使っていくうちに色やツヤが変化して味わいが出てきます。僕の仕事はある意味で作ったら終わりになりますが、その先で毎日の生活に取り入れて、楽しんでもらえればうれしいです。棚の奥にしまわれてしまうのはいちばん悲しいかも(笑)」
山田洋次●1980年、滋賀県生まれ。2002年、信楽窯業試験場修了。2007年、渡英。リサ・ハモンド工房で修業。現在、信楽に窯を構える。 http://yamayo-pottery.com
『クロワッサン』959号より
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