スタイリスト・小暮美奈子さんに聞く、シンプルな料理に映える大皿。
撮影・三東サイ 文・一澤ひらり
大皿に盛られた料理がもたらす、“とっておき”感。
小暮さんがお気に入りの大皿に盛りつけるのは、主にシンプルな料理。
「蒸した塊肉をドンとのせたり、パンを盛り合わせたり、そのほうが存在感が際立って迫力が出るんです」
陶磁器、ガラス、木など材質や、色、形の違いによっても、盛りつけられた料理の印象は見事に変わる。
「ガラスプレートは清涼感があるし、木の器は温もりと風合いが魅力です。耐熱皿は直火で調理してそのままテーブルに出せるから、アツアツのグラタンを出すとパーティでは歓声があがりますね。迫力も満点!」
なかでも小暮さんが重宝するというのはオーバル皿。
「お皿の基本は真ん丸だから、楕円形のオーバル皿のようにちょっと変形のものがあると、テーブルにリズム感が生まれます。白系が好きで何枚か持っていますが、余白がきれいで、料理が合わせやすいですね」
ところで今回、小暮さんが料理に使った大皿たちはここ10年ほどのあいだに買ったり、頂いたりしたものばかりとか。
「仕事柄、料理家とかスタイリストの仲間から陶芸家の展覧会の情報が入ってくるので訪ねて行くと、作りのいいものに出合えるんですよね」
今回紹介してくれたなかで、井山三希子さん、郡司さんのオーバル皿(上写真)は個展で入手した。
「友人でもある井山さんは、すごく人気の作家さん。しなやかなフォルムで温かみがあって料理をおいしく見せてくれるんです。個展にも行列ができるほどですから、私も並んで買ったんですよ(笑)」
と話す小暮さんだが、器を買い求めるのは旅先が多いそう。出西窯の大皿は出雲市にある窯元のショップで、市川孝さんの耐火皿は鹿児島市のギャラリーで購入したものだ。
「器を使うたびに旅の思い出が甦ってくるんですよね。一枚一枚に自分だけの物語があるし、この一枚しかないと思うと扱いも丁寧になります。その土地に行かないと手に入らないものもあるし、もう今では作れない器もある。丁寧な手仕事で誠実なものは大切にしていきたいですよね」
大皿には「脱日常」の楽しみがあると小暮さん。大皿に盛られた料理は器を入手した思い出も重なって、“とっておき”感をもたらしている。
オーバル皿は料理を選ばず、セッティングも自在。
オーバル大皿(長径35cm)は栃木・益子で妻の慶子さんと作陶している郡司庸久さんのもの。
「ババグーリ本店の展覧会で見つけたんです。黄味がかった淡いベージュというナチュラルな色なので、どんな料理とも相性がよく、しかも和洋の別がありません」
盛りつけた料理はセージ風味のリゾット。鍋でバターを煮溶かしながらセージで風味を出し、15分ほど茹でた米と混ぜ合わせた。
「このお皿ならシンプルに盛りつけるだけで絵になるんですよ」
手仕事ならではの味わいが、心をくすぐるアクセントに。
「井山三希子さんのオーバル皿(長径35cm)はサイズ違いで持っていますが、使い勝手がいいんです。マットな質感でやわらかな曲線と繊細で優しいトーン、手仕事ならではの手跡やゆがみ、独特のニュアンスがあって好きですね」
盛りつけた料理はキノコのソテータイム風味。5〜6種類のキノコをタイムとオリーブオイルでさっとソテーして、蒸し煮したもの。
「プレートがまろやかな白なので地味になりがちなキノコ料理もいっそう引き立ちますね」
小暮美奈子●スタイリスト。もの選びの確かさと、心地よい上質なスタイリングで雑誌・広告などで長年活躍。著書に『My Style〜スタイリスト小暮美奈子がたどりついた心地よさ』(宝島社)。
『クロワッサン』959号より
広告