唐津焼の注目したい作家たち《2》
撮影・青木和義 文・片柳草生 編集・二階堂千鶴子
唐津焼発祥の地で、若手作家の器を発信する古民家ギャラリー。
峻峰岸岳の麓にある唐津市北波多は、唐津焼発祥の地。ここにある築120年の古民家が唐津焼ギャラリーだ。趣豊かな日本家屋に、さまざまな作り手の唐津焼が並ぶ。器の横のカードには、器の名称のみが記される。裏を返すと作家名と価格がある。お客様には、まずじっくり器を見てほしい。値段や作家名は別評価だという思いからだ。
主人の原和志さんの本業は、和菓子屋。長年、茶の湯を嗜んできて、やきものへの関心は人一倍強い。
「現在の唐津焼の若手は、再現が主題になっている。料理とかけ離れて使えない器が多いのは、お手本だけを写すことに終始するからで、なんとなく唐津っぽいところで止まっている人が多く、ものに心がない」と苦言を呈すが、それは原さんの唐津焼愛の裏返し。使える器を作るために、お茶を通して日本の文化を学んでほしいと茶道教室を開き、広いスペースを思いきり生かすような大きな作品を作ってほしいと、2カ月に1度、個展を開く。唐津焼に新しい風を吹き込んでいる。
食いしん坊が作るモダンな線刻の器。
中里太亀●隆太窯
父・隆が起こした隆太窯を継ぐ太亀さんは、大学卒業と同時に父に弟子入りした。豪放磊落な人柄と作風で唐津焼の人気を牽引した父は、食べることを何よりも楽しんだ。太亀さんもまた、手がける器づくりの基本を、日々の生活に置く。モダンな雰囲気を持ちながらきちんと作られたことが伝わる飯碗や酒器、片口。「職人肌の器で人気があります」と原さん。こんなしゃれた飯碗で、新米を食べてみたい。
唐津の骨格とミックスする進取の気性。
中里花子●monohanako
花子さんは太亀さんの妹。テニスプレイヤーだった花子さんは、10代でアメリカに渡った。テニスを退いた後、日本へ戻って父のもとで修業。「轆轤感がすばらしい」と激賞する原さん。土に合わせてひく自由な轆轤感覚は、リズム感に満ちている。UROCO鉢は白い薩摩の土に黒化粧掛けして削ったもの。唐津を骨格としながら自在な感覚で、メイン州を拠点に日本とアメリカで作陶を続けている。
古唐津から脱出を試みる 破調の美。
岸田匡啓●鳥巣窯
「独立してわずか4年目ですが、新しい唐津を作っていきたいという意欲が、意匠ににじみ出ています」と原さんが面白がる作家だ。唐津の土で板づくりしたものをカットして、共糊でつけたのなんという薄く端正な形。黄唐津預鉢では、焼く温度を調整してかせた感じを出している。唐津の素材を使いながら、独創性に満ちた遊び心が躍動する現代唐津だ。
古唐津好きにはたまらない砂っ気のある土の味わい。
吉野敬子●櫨ノ谷窯
自然農法の田畑を営む傍ら、桃山時代の唐津焼をめざして土と窯焚きに明け暮れる吉野敬子さんの櫨ノ谷窯は、伊万里市にある里山だ。片口を手にした原さんは、「もっとも唐津らしい土味の器です。砂っ気のある土の味わいが美しいでしょう」と。古唐津好きには、たまらない器だ。和え物を入れたり小鉢として使ううちに、なじんで変化する楽しみがある。
端正な仕事から香る知性的な感覚。
井銅心平●萩見窯
食器が作りたいと隆太窯に弟子入りし、中里太亀さんに師事すること3年。「刷毛目や三島が中心で、値段よし、使い勝手がとてもいい器です」と原さん評。現在は熊本の宇城市でガス窯による焼成を行っているが、登り窯を作りたいと唐津近辺でも土地を探しているそう。内外に細かな花模様を刻印した三島鉢は、きりっとした佇まいに知性的な感性が光る。
片柳草生●文筆家、編集者。工芸、骨董、染色など多彩なジャンルに詳しい。著書に『手仕事の生活道具たち』ほか。
『クロワッサン』959号より