ノンフィクション作家の澤地久枝さんに聞く、生き方を決めた一冊。
撮影・青木和義 文・寺田和代
澤地さんが現在取り組む仕事は、白樺派の作家・武者小路実篤とともに大正7年、宮崎県に拓いた「日向新しき村」に関わった人々のノンフィクション。「30年来の仕事です。現地に足を運んで取材を重ね、実篤の元妻・房子と、彼女ののちの夫・杉山正雄らが戦中・戦後を生き延びた姿をまとめています。生きているうちに脱稿させなきゃね」
2004年に小田実さん、鶴見俊輔さん、大江健三郎さんらと旗揚げした「九条の会」では今も可能な限り全国の活動の場に足を運び、毎月3日には国会正門前の抗議行動に立つ。
「ずいぶん長生きしてきましたが、こんなにひどい時代は初めて。満州から引き揚げたどん底時代よりひどい。『九条』メンバーは鬼籍に入られた人も多く、病弱な私がこんなに長生きして申し訳ないようですが、その分も自分にできることは精一杯したい。これまでしてきたことをこの先一つも変えることはないでしょう。『SEALs(シールズ=自由と民主主義のための学生緊急行動、2016年解散)』でスピーチをした時は代表の奥田愛基さんに、いくつですか、と聞かれ、84(当時)です、と答えたら『次は84歳の澤地さんて人が話しまーす』って。いいなーって思いました。戦争反対という思いはこんなふうにつながっていけるって」
『クロワッサン』955号より
●澤地久枝さん ノンフィクション作家/1930年、東京生まれ。4歳で中国東北部に渡り、そこで敗戦を迎える。引き揚げ後に復学し、早稲田大学を卒業。’72年『妻たちの二・二六事件』でデビュー。菊池寛賞の『記録ミッドウェー海戦』など著書多数。最新刊は『海をわたる手紙』。
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