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ノンフィクション作家の澤地久枝さんに聞く、生き方を決めた一冊。

魂を揺さぶられ、導かれた。澤地久枝さんの今に至る生き方を決めた一冊の本について話を聞きました。

撮影・青木和義 文・寺田和代

その思いを後日、五味川さんに率直にぶつけると「梶はこうならなきゃならなかったんだよ」という淡々とした答えが返ってきたそう。ともあれ当日の面談には他社の編集者ともかちあったが、五味川さんが引き受けたのは初対面の澤地さんからの原稿依頼だった。

「私も満州育ちです、と口にした途端、五味川さんと通じ合うものがあったような気がしました。私は父の仕事の都合で4歳の時に満州に渡り、敗戦とともに15歳で引き揚げてきた人間です。満州への、あえていえば郷愁のような思いを共有したのかもしれません」

後で振り返れば『人間の條件』との出合いが、今に至る生き方を決定づける最初の転機になった。

「心臓に持病を抱えながら編集者として働き続けましたが1963年に心臓喘息で倒れ、心身ともにどん底状態で入院。なんとか退院したものの、会社勤めは無理だと言われ前途は真っ暗。退職した私に声をかけてくださったのが五味川さんでした。『長編の準備をしているが、助手になる気はありますか』と。そして、(『人間の條件』で)『文壇からはひどいことも言われ、無視されている。助手になればあなたもそのそしりを免れないだろう。その覚悟はありますか』と。私は迷わずお引き受けし、『戦争と人間』の資料助手をその後10年にわたって務めました。あの時踏み出した一歩が、私の作家人生につながったと思います」

秘書も、家事の手伝いもいない〝おひとりさま〞暮らし。週1度、心臓専門のリハビリに通う以外の健康の秘訣は「よく歩くことくらいかしら」。
秘書も、家事の手伝いもいない〝おひとりさま〞暮らし。週1度、心臓専門のリハビリに通う以外の健康の秘訣は「よく歩くことくらいかしら」。

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