【後編】不満があっても喧嘩をしても、やっぱり一人じゃ生きられない。
撮影・清水朝子
愛知・蒲郡。のどかな空気が流れるこの場所で、自分たちの大好きなおしゃれを発信し続ける夫婦がいる。セレクトショップ『サスコン』のオーナー、鵜飼芳夫さんと弘子さん。
仕事も私生活も一緒ゆえの大変さも多いかもしれない。結婚52年目の2人に、失礼を承知で聞いた。離婚を考えたことってありますか? 「ありますよ、そりゃ、多々あります」と正直な弘子さんに、「僕は一度もないなぁ」と芳夫さんはちょっと苦笑い。
「夫はよく言えばおおらか、悪く言えば気がつかないところがあるのね。マイペースっていうか。たとえば、2人で鍋をしていて、私が宅配便に対応している間に全部食べちゃったり、食卓で私の届かないところにあるお皿を取ってくれなかったり、そんな細かいことなんだけれど、積み重なると気になるのよね。それに夫はいろんなことをすぐ忘れちゃうから、仕事で大変なことも、私ばかりが全部抱えているような気がしてしまう。それでわーっと当たっても、彼は怒らないんだけど」
ときに爆発することがあっても、現実に離婚に至ることはなかった。
「私、自信がないの。すごく寂しがり屋だから、バリバリ仕事をしていたって、一人で大丈夫とは思わない。一人でなんて絶対生きられない」
夫婦のこと、仕事のこと。あれこれ溜めこんでつらくなったときには、竹島の「秘密の場所」に行くという。
「あそこに行って、ときには涙を流して、リセットする。気持ちの良い場所で心まで浄化されると、もういいか、しょうがないかって諦めがつく。でもそういうふうに切り替えられるようになったのも最近のこと。人生良いことばかりじゃないし、逆にそんなに悪いことばかりでもない。だからこそ、自分の気持ちひとつで変わるんだね」
気の持ちようは大事だね、と芳夫さんも続ける。
「相手のことを全部調べ上げて、理想どおりの完璧な人と結婚するわけじゃないんだから、嫌なところもあって当然。1から10までぴったりうまくはいかないよ。厄介なのは、慣れれば慣れるほど、嫌なところのほうが目立ってしまうこと。そんなとき、相手の良いところを見るようにする、というのが大事なんじゃないかな。僕にとっては弘子の可愛いところ。顔立ちも容姿も、正直な性格も、全部が究極的に可愛い」
52年目にしてこう言える芳夫さんは、世の女性の理想の夫かもしれない。最後に、夫婦を続けるのに一番大切なものを聞くと、2人揃って「いたわり合いだと思う」と答えてくれた。長い時間を積み重ねても、思いどおりにいかないことは多い。それでも、いろいろな思いを飲みこんで、いたわり合って、手を取り合う。夫婦とはそういうものだと、2人の姿に教えてもらった。
『クロワッサン』938号より
●鵜飼芳夫さん 鵜飼弘子さん/セレクトショップ『サスコン』を営む。1階は国内ブランドを主に扱うSUS(サス)、2階はインポートもののCONTRAST(コントラスト)。愛知県蒲郡市元町4・8☎︎0533・68・5019 営業時間10時~19時 火曜休
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