『完本 檀流クッキング』檀太郎さん|本を読んで、会いたくなって。
父のこだわりを想像しつつ料理を再現した。
撮影・森山祐子
『檀流クッキング』は作家・檀一雄が、国内はもちろん世界各地を旅して食べた料理をレシピとともに紹介したエッセイとして今もロングセラーを続ける名著だ。1975年に出版された同書で割愛された原稿を加え、さらに紹介されている料理をすべて実際に作って写真で紹介したのが、今回出版された〝完本〟。長男の太郎さんは妻の晴子さんとふたりで177に上るメニューを作った。
「最近インターネットに父のレシピをもとにした写真が数多く上がっているのですが、何か違うなというのが僕のなかにあって。これは自分たちで作って本にまとめるしかないかなと思ったんです」
放浪の作家と言われた檀一雄だが、家にいる限りは毎朝市場へ買い物に出かけ、家族や客人のために料理の腕をふるったという。
「この素材じゃなきゃ、とこだわるんだけど、それがないならこれでもいいと。その妥協加減が絶妙なんですね(笑)。だから、今作るならこの材料かな、と父の感覚を頭に描きながら再現しました」
『タンハツ鍋』はエッセーで描かれた昭和40年代には太郎さんが肉の卸問屋に行って豚の舌から腸までつながったものを買ってくる。晴子さんがそれをオカラと酢と塩で揉むと一雄さんがさばいて鍋に入れていた。
「晴子も初めのころはびっくりしてましたね(笑)。今の人には部位ごとのレシピにしています」
逆に五月の端午の節句に合わせて作ると書かれた『肉ちまき』は今も同じレシピで毎年作る料理だったり、エッセイに残していなかった檀家の定番料理だったビーツのサラダも初紹介している。
「父が〝ポーチ(?)という木の実を使っているので美味しい〟と書いている台南風玉子焼きも再現しました。台湾の方からポープーツー(破布子)という木の実があると聞いて、台湾に飛びました。確かにこの木の実を使うと料理は抜群! 父が謎のまま記したことを解明して作れたのは、親孝行ができたかなと思っています」
エッセイを読んでから料理を見るか、料理を見てからエッセイを読むかはおまかせします、と語る太郎さん。ただぜひ紹介した料理を作ってみてほしいと言う。
「たとえば『イカのスペイン風』。これなんか父も書いているけど実に簡単ですこぶる美味です。レパートリーも広がるし、家族にも喜ばれると思います」
エッセイを楽しみ、料理に垂涎し、そして自分で実際に作って堪能する。一冊で三度美味しい本を満喫してほしい。
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