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#07 スイスでチーズを食べながら。

文/写真・とまこ

「どうだった? 世界一の氷河はすごかったでしょ!」

と、正確にはヨーロッパ一大きい世界遺産のアレッチ氷河へのハイキングから戻ってきたら、ホテルのエライ人マリオさんがうれしそうに聞いてきた。

アレッチ氷河、圧巻! 中心部は1年に200mのスピードで進んでいる。

アレッチ氷河、圧巻! 中心部は1年に200mのスピードで進んでいる(23.6km、現在少しずつ後退中)。

本当にすごかった。つんつんとんがった雄大でかっこよすぎる山々の狭間をうねって進む氷の道……というか、狭間を氷自身で切り開いて進んできた軌跡! 重くて大きくて途方もないあの世界のアルプス山脈を、時間をかけて、じ〜っくり、うんしょうんしょと左右に押しのけ、氷河としての自らの本分をまっとうすべく進んできたら、どんどん大きく深く長くなって……なんて壮大な積み重ね! モーゼの杖ひと振りで海が開けるやり方とは真逆のすごさ。う〜ん、地道で気長。彼ら氷河の本気をリアルに体感できて、現場で共有できて、感動したなぁ……。

取り巻く山々はどれも 標高4000m級。氷河の上を散策するツアーもある。今度は氷河の底から山々に圧倒されてみたいなぁ。

取り巻く山々はどれも 標高4000m級。氷河の上を散策するツアーもある。今度は氷河の底から山々に圧倒されてみたいなぁ。

しばらく口開けっ放しノーまばたき状態で見つめていると、ガイドさんがランチにしようって。近くにいい塩梅の石を見つけて座り、食べたチーズの味は一生忘れない。おいしすぎて、またもおののく。

パンもむっちりもっちり、最高。わたしが知ってるヨーロッパで、スイスは1番パンがおいしい国だった。

パンもむっちりもっちり、最高。わたしが知ってるヨーロッパで、スイスは1番パンがおいしい国だった。

スイスのチーズは、本当に全然違うから! ここを訪れるまで、チーズはどこのも大抵おいしいく、差があるとしたら種類の差だけと思っていた。それが、スイスのは明らかに頭ひとつ飛び抜けてる。濃密でコクがあって、出汁が効いてるかのように味わい深い。惚れたなぁ。『アルプスの少女ハイジ』が、おじいさんの作った丸くて大きいチーズをおいしそうに食べているシーンが心に焼き付いてる方も多いと思うけど、あの「おいしそう」はアニメだからじゃなく、真実だったのです!

ちなみに、スイスの物価の高さは噂どおり……ハイジに登場するような丸いチーズは半分で1万5000円以上するのもざら。しかも、みんな普通にポンと買うからびっくり。最低賃金は月45万円と聞いたから朝飯前なのかもしれないなぁ(遠い目)。

スイスには2500種以上のチーズがあるそうで! どれを食べても新たな感動があった。小さい頃からずっと食べてるチーズなのに、すごい。『WALKER』チーズ工場直営の店にて。 http://walker-ag.ch/

スイスには2500種以上のチーズがあるそうで! どれを食べても新たな感動があった。小さい頃からずっと食べてるチーズなのに、すごい。『WALKER』チーズ工場直営の店にて。 http://walker-ag.ch/

歴史深い壮大な氷河と、今この瞬間の喜びのランチ。相乗効果はんぱない。もう、頭の中が幸せ成分しかない。そういえば、ついさっきまで歩きながら思いを巡らせていたことも、朝まで話しあってた仕事の案件も、ディナーは何にしようかな〜とかも。心の中から全部がいっきにスカーッと消え去ってる。あるのは、今、気持ちいいってことだけ。心の中をふんわりとした風が満ちては去って、今、必要なものだけが残ってる。世界がすごーくシンプルに感じられた。デトックスとはこのことよ〜。

まさに軽やかな足取りで山を降りてたら……山の下の方、自分の下に、虹! あ〜あ、また口が閉じなくなっちゃった。

虹を目にしたとたんの突き抜けるような幸せ感ったら。ハイジみたいに、足元のハーブの草むらをかけ降りて転がってみたくなった。

虹を目にしたとたんの突き抜けるような幸せ感ったら。ハイジみたいに、足元のハーブの草むらをかけ降りて転がってみたくなった。

夜はマリオさんと一緒にホテルのレストランへ。ここリーダーアルプの名物料理はなにか聞いたら『コレラ』だと。ん!? 食べるのこわっ。かつてコレラがこの地域で流行ったとき、他との物流が途絶えたので地元にある食材で作ったパイだとか。で、このネーミング……ちょっとは工夫すればいいのにね(笑)。

名前はともかく、絶品すぎてびっくり! しゃくしゃくしたリンゴと梨の華やかな甘みと酸味、チーズの塩気がしっとりタマネギに絡み付いて、カリカリベーコンがパンチを添えるパイ。フルーツ主体のおかず系の味付けは日本の感覚だと多少驚きがあると思うけど、きっとはまります。個人的にはスイスで一番好きな料理、熱烈おすすめ!

これがスイスNo.1料理『コレラ』。ネーミングと、おいしそうな見た目と、最高の味にギャップあり過ぎ。落としてあげる作戦かな(笑)。

これがスイスNo.1料理『コレラ』。ネーミングと、おいしそうな見た目と、最高の味にギャップあり過ぎ。落としてあげる作戦かな(笑)。

おいしいごはんがあれば、そりゃぁ話も弾むってもので。マリオさんとは仕事、趣味、ご家族、奥さまとの恋愛、いろんなお話をした。彼には二人のお子さまがいるそう。これまでいろんな人と話してきて、ヨーロッパのご家族の場合、結婚してないこともよくあるとわかったし、してようがしてまいが、そこにメンタルな差があるとはまるで思えない。なので、結婚しているのか聞いてみる。

「初めはしてなかったけど、子供が生まれて三年目に結婚したんだ」

へぇ、初めて聞くケースだ。これまでは、結婚してない人は、心底結婚に意味を見いだしていなくて、今後もするつもりのない人ばかりだった。「愛し合っていて完璧な家族よ」って。社会システム的に未婚でも支障のないヨーロッパでは本当にそうだと思う。結婚している人も、もちろん完璧な家族。した理由はロマンスだったり、お金の問題だったり。まぁ何かしら理由やきっかけがあった。じゃぁマリオご夫妻は? 二人の関係性に途中で結婚という変化を加えようと思った理由を聞いてみる。彼は「わからない」と肩をすくめる。「奥さんが結婚してもいいって言い出したんだ」って。

Art Furrer Hotelsのレストランの周りも、まさに絶景。マッターホルンが赤く輝いていた。http://www.artfurrer.ch/

Art Furrer Hotelsのレストランの周りも、まさに絶景。マッターホルンが赤く輝いていた。http://www.artfurrer.ch/

その感覚を聞いてみたくて、あとで奥様にメッセージをしてみた。

「結婚したのは34歳のときで、上の子が3歳、下の子が1歳だったわ。一生、彼と、子どもたちと一緒にいたいと思ったからよ」

かといって、子どもを作ろうと思ったときにも、ずっと一緒で離れるイメージはなかっただろうし、他の未婚のご家族だって同じだと信じてる。「一生一緒」の思いが、とかく強まったってことかな。絆の強さは、時間の長さと、共同作業の量に比例するとも言えるし。

泊まっていた部屋。アルプスの絶景に埋もれる立地は最高に優雅。木の温もりに包まれ、こんな穏やかな時間があるんだなぁと幸せに浸る……なんで1人だったんだろう(笑)!! ハネムーンに、特別な記念日に、絶対いいと思います! http://www.artfurrer.ch/ ©artfurrer.ch

泊まっていた部屋。アルプスの絶景に埋もれる立地は最高に優雅。木の温もりに包まれ、こんな穏やかな時間があるんだなぁと幸せに浸る……なんで1人だったんだろう(笑)!! ハネムーンに、特別な記念日に、絶対いいと思います! http://www.artfurrer.ch/ ©artfurrer.ch

「会社はやめたの。仕事は主婦よ、立派な仕事でしょ。朝子供を送り出して、掃除洗濯、子供が学校からランチしに帰ってきて、学校へ戻ったらまた家事。あっという間に夕飯ね。寝かしつけたらやっと一杯のビールよ。ちなみにみんなピザが好きだから、よく作るわ」

ランチで帰宅とか、ピザとか、項目こそ違うけど、日本でも聞き覚えのあるお話でスイスが身近に感じられる。でもそのスタイルがあるなら、日本では大抵結婚しないとうまく回らないと思うけど、スイスでは回る。「結婚」という概念の位置づけが格段に違うんだな。純粋に、愛の表現手段のひとつなんだろうな。マリオご夫妻は、深まった愛を表現すべく、その手段を選択した、そんな感じかな。他の未婚のご家族は、別の方法で表現してるんでしょ、きっと。

わたしは10代の頃から恋人とは全員結婚するつもりでいた(笑)。青臭い話だけどいつも本気で、好きなら離れるイメージがなく、そしたら結婚しかない、という簡単な発想。大人になり、離婚も経験した今はというと、してもしなくても、どっちでもいい。たぶん表現方法が増えたのだと思う。愛情表現、自己表現。様々な手段や方法を獲得したので「結婚」という形をとらなくても表現できる。あ、子どもができたならすぐします、ここは日本だから(笑)。

泊まっていた部屋の窓から。しばらく過ごすと、心の中から雑音がすーっと消えていく……魔法のような空気で満ちていた。

泊まっていた部屋の窓から。しばらく過ごすと、心の中から雑音がすーっと消えていく……魔法のような空気で満ちていた。

 

取材協力:
スイス政府観光局
www.myswiss.jp
レイルヨーロッパジャパン
www.raileurope.jp

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