『無常商店街』酉島伝法 著──予想の斜め上をいく珍妙な世界を回遊
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
その想像力に圧倒される国内の現代作家といえば、真っ先にこの方の名前が浮かぶ。新作は、酉島伝法さん作品初心者にうってつけの1冊だ。あ、いや、いきなり『皆勤の徒』みたいなぶっ飛んだ作品を読んで、ドはまりした人も多いだろうけれど。
翻訳家の宮原聡は、姉からしばらく留守にするので飼い猫の世話をしてほしいと言われ、彼女のアパートのある浮図市へ向かう。宮原にとってそこは未知の場所。姉には、この町にある無常商店街には行かないようにと忠告されていたが、書店を探してうっかり足を踏み入れてしまう。引き返そうとすると、背後には見覚えのない景色が。まさに“無常”の商店街で、彼は迷子となってしまうが……。
宮原の姉は、環地域調査研究所の職員で、各地に赴いてはその土地の奇妙な現象や風習を調べている。そこに宮原が巻き込まれる顛末を描いた3作が収録される本書。奇妙奇天烈に見えてどこか現代社会に通じるものを感じさせる世界観や、意味が分かりそうで分からない珍妙な語句の炸裂が楽しい。調査という設定があるからこその意外な展開にも唸った。巻末対談で本作の発想の源の一部が分かるのもお得な気分。楽しい。
『クロワッサン』1163号より
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