『日日是植物』著者 いとうせいこうさんインタビュー ──「終わることのない下手の横好きです」
撮影・鳥羽田幹太 文・一寸木芳枝
朝顔、ニチニチソウ、モッコウバラに胡蝶蘭。時にシイタケやドラゴンフルーツまで。好奇心の赴くまま、さまざまな植物を自身の手で育ててきた、いとうせいこうさん。その園芸歴は約30年にも及ぶ。
「失敗もたくさん、それこそ毎年、数カ月おきに思うんです。あれ? 俺はこれを枯らすために買ってきたのか、と。なのに、過去にただ1回あった成功体験が“次はいけるはず”と思わせるんですね」
自身の不器用さが原因で〈あんな可愛かった九種の多肉がゴミみたいに見え〉涙を滲ませた日も、手を出すまいと決めていた“花の咲く植物”に再びチャレンジするも、見事に枯らして〈下手がやれるのは好きでいることだけ〉と素直に認める日も、本作ではドラマティックに、ユーモアたっぷりに綴られている。
「こりない上に、上手に育てる根気もテクニックもない。そんな自分でも、植物が頑張って付き合ってくれて、“成長”を目に見える形で返してくれることがある。だから、やめられないんだよね」
全78編のエッセイからなる本作の中には、夫婦間で繰り広げられる静かなる“領土争い”が描かれる「室内園芸地図」という一編も。
「ベランダで鉢植えを置くスペースは南側だけ、と決められていることもあり、玄関、リビングの窓際、室内ハウスなど、許される限り室内での領土を広げてきてはいたんです。ただ、それでも限界はあるじゃないですか」
そんな矢先、〈頭の上は空いているのだ!〉と思いついた、いとうさん。〈頭上は夫婦どちらの領土ともはっきりは決められていない〉と、ハンギングという形で領空を占領する手段に出た。
領土争いも過酷な気候変化も、アイデアと植物愛で乗り切りたい
「いいアイデアでしたが、水をやるのが大変で。自分の目で量を確認できないから、あふれた水がソファを濡らすことたびたび……。水やりの改善は盛んに要求されています。もはや“容器自体を変えたほうがいいのでは”というアドバイスもいただいております」
いとうさんの園芸に師はいない。
「自分が思いついたことでうまくやりたい。でも小学校時代、図工の授業で先生に“いとうくんはアイデアはいいけど、作るのは全然ダメ”って言われた当時と、何も変わっていませんね(笑)」
昨年は自動灌水器を自作し、ベランダ植物への水やり作業を「AI化」。奮闘は続いている。
「素人園芸家を取り巻く環境は年年厳しさを増しています。特に猛暑を乗り切るのは大変よ。だから、環境に左右されないフェイクグリーンのニーズが高まるのもわかるよね。でも僕にとってそれは、“固定された死”。買ってみたけど、愛せなかったんです。ただこの先、AIが搭載されて根っこが伸びたり、葉っぱが枯れたり、成長具合を感じさせるフェイクグリーンが出てきたら、また変わるかもしれない。だって、水やりで悩む必要もないんだから(笑)」
『クロワッサン』1162号より
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