『弔いのひ』著者 間宮改衣さんインタビュー ──「父に正面からぶつかってみたかった」
撮影・青木和義 文・堀越和幸
父親は先般のコロナ禍の際に亡くなった。コロナ禍だったので最期を看取ることはかなわなかった。本作はそのことを題材にした、間宮改衣さんの私小説である。
「父は家族の中でも私にとって不思議な存在でした。血がつながっているのに他人のような空気感があって、同じ家で暮らしていても何を考えているかがわからない。表面的な会話はありつつも、決してそれ以上に踏み込んでくることはない。まるで面倒や衝突をあらかじめ回避しているようでした」
デビュー作も家族をテーマにした物語だった。だがそれは、永遠に老いない体を手に入れた主人公が描く、死にゆく家族の歴史というSFの物語だ。
「それを書いたことが本作を書くきっかけとなりました。物語ではない、私の家族とはなんだったのか? なので、あえて私小説というスタイルを選んだのですが……」
いざ始めてみると、起きたことをそのまま書けば小説になるというわけにはもちろんいかず、間宮さんは試行錯誤を繰り返した。
「当たり前ですよね。実際の物事は小説のために起きているわけではありませんから」
娘が知ることのなかった、父の意外な一面
作品中では主人公の織香は、作品を書くために亡くなった父との関わりをおさらいすべく、生前にやり取りを続けていたメールの履歴をひっくり返す。すると自分が思っていた父と実際に送られてきた父の言葉との間に大きな乖離を感じることになる。多発性骨髄腫を発症していた父はやがて、自分でメールをすることもままならなくなり、面倒を見る伯母と大叔母の代筆に委ねることになる。
「織香は下請けのゲームシナリオライターをしているという設定で、その仕事は忙しく、父とのメールが次第に面倒になっていきます」
〈もともと関係性が希薄な父親に無料で優しい言葉を送り続けるなんてできない。一文字あたり、最低でも二円はもらわないと。〉
父の死を迎え法定相続人となった織香は“ようやく報われる時が来た”と思い、さらには小説を書くために、母に、そして父が活動をしていたがん患者の集いの中心人物と連絡を取り、父の意外な一面を知ることになる。何かと遠慮がちで踏み込めない性格の父は、実はがん患者仲間にとっては、とても頼もしい男だった、と。
「何事においても距離を取る遠慮がちな性格は、実は私も似ているところがありました。織香の目から実際にあったことを捉え直してみると現実と創作のバランスが初めて取れて、私小説として立ち上がっていくのを感じました」
父と娘。似た性格。現実ではぶつかり合うことができなかったけれど、この小説を書くということが父への体当たりになった。
「親もひとりの人間。結局、私は親に親の役割を求める幻想に囚われ過ぎていたのではないか。父が本作を読んでくれたとしたら、きっと喜んでくれたと思います」
『クロワッサン』1161号より
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