『83歳、もふもふのネズミを拾う。そして人生が変わる。』サイモン・ヴァン・ブーイ 著 寺尾まち子 訳── 一匹のネズミにより始まる老婦人の奮闘
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
インディーズ出版社発ながら世界的ベストセラーとなった小説の邦訳である。
長年オーストラリアで暮らしていたが、夫と息子を亡くし、老いてから故郷のイギリスにもどってきたヘレン。人との交流もなく孤独に暮らす彼女は現在83歳。ある冬の朝、彼女は隣人が捨てた、がらくたの入ったガラスの水槽を持ち帰る。というのも、かつて彼女が息子に贈ったものと同じ深海ダイバーのおもちゃが上にのっていたのだ。が、水槽の中には一匹のハツカネズミも潜んでいた──。
ここで「わあ可愛い」とはならず、ヘレンは迷いなく〈この家で小動物は飼えない〉と考え、金物屋にネズミの駆除方法を相談しに行ったり、動物保護センターに電話をかけたり。そんな彼女の奮闘の傍ら、ネズミはのんきに〈後ろ足で立って、小さなハーモニカを吹くように、オート麦を食べている〉というから、その姿を想像してきゅんとしてしまう。が、ある時、異変が起きて……。
たった2週間のうちに、ヘレンの生活は劇的に変化していく。これは彼女の再生の物語でもある。思えば自分と亡き愛猫との出会いも似たような偶然だったけれど、またこんな経験をしたくなる。
『クロワッサン』1160号より
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