『AIに看取られる日 2035年の「医療と介護」』奥 真也 著──AIは超高齢化する日本の救世主となるか
文・館神龍彦
AIは今やパソコンやスマホでも使えるようになりました。ChatGPTやGeminiなど、仕事のサポートをしてくれる相棒みたいな存在です。メールを代筆し、アイデアのたたき台をすぐにだしてくれます。
では、医療の現場にはなにをもたらすのか。とくに現代日本の医療現場の課題をAIやDXの各種技術は解決できるのか。これがこの本のテーマです。
著者の奥真也氏は、東京科学大学特任教授であり医療未来学者。本書は、同氏の前作『未来の医療年表』(講談社現代新書)の続編にあたります。現在の日本は、かつて経験したことのない超高齢化社会。医療費は国家財政を圧迫し、人材に代表される医療リソースの不足や適切な配分も課題です。
著者によれば、AIはもはや未来ではなく現在のトピック。たとえば、診断時の会話をリアルタイムでテキスト化して要約し電子カルテに自動入力するAIシステムが導入されはじめ、またこれにより医者の記録業務は大幅に短縮。患者との対話に集中できる状況が整いつつあるそうです。
AIの可能性の一つが、診断の正確さ。かつて名医といわれていた人の典型スタイルは、一目で患者の症状にベストの治療法を選択するタイプ。一方でAIは、生身の医師が生涯かけても診られない数百万の症例データを参照・分析できます。こういう知識の外部化によって診療の正確性が向上するわけです。
医療リソースの適切な配分にも期待が持てそうです。オンラインで済むような診察がなされれば、医療費の抑制が期待されますが、そのためには行政が細部を掌握して、ガイドラインのもとに運用されることが重要だと著者は言います。
2020年から日本でも保険適用が本格導入されたデジタル治療アプリも、医療費の構造にあらたな変化をもたらす存在として急速に発展しています。2025年4月時点では、5製品が薬事承認を取得し、うち2製品が保険適用されているそうです。アプリで疾病の予防から管理、治療をするのは、従来の医院での受診とは大きく異なるスタイルですが、これも医療の正確性と、不当な医療費高騰を抑制する手段として期待されている。著者は言外にそれを伝えようとしているようにも思えました。
このように本書では、日本の現在の医療現場が抱える諸問題が、AIやDXの導入によって解決される可能性について、いろいろな事例をひきながら考察されています。さらにALS(筋萎縮性側索硬化症)患者への診断のように、AIが一律で診断できないケースについても触れられています。
医療におけるAIとDXは、効率化と正確性をもたらし、結果として医療費の抑制にもつながります。それは同時に、私たちの持つ従来的な受診のイメージとスタイルが変わることでもあります。AIとDXのある医療は、受け身ではなく、受診者自身がアプリを利用することも含め、能動的に付き合うことが求められています。『AIに看取られる日』はそれを象徴したタイトルなのです。
『クロワッサン』1155号より
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