『頭がわるくて悪くて悪い』著者 献鹿狸太朗さんインタビュー ──「頭が悪い、の切り口を集めてみました」
撮影・園山友基 文・堀越和幸
三浦馬連と山井考直。2人の男がステップワゴンを駆って山奥のとある建物に向かっている。2人の目的は宇宙人退治だ。これは、献鹿狸太朗さんの4作目の小説に当たる本作の冒頭部だ。タイトルの『頭がわるくて悪くて悪い』のインパクトがまずすごい!
「前に不思議な体験をすることがあって、棚から本が落ちてきて私にとって特別な意味のあるページが勝手に開いたんです。スピリチュアルやオカルトで語れば簡単に説明がつくのに、私はその考えを回避して吹いていない風やいない虫のことについて思った。そんな自分って頭が悪いなと思って」
頭が悪い、ということが考えることの放棄であるならば、その切り口はきっとたくさんある。
「そんなものを集めて一作にしたいなと思い、書き始めました」
馬連と山井は両角という男に雇われている。“宇宙人を殺すのはなんの犯罪にもならねえんだよ”の言葉に唆されて実行する闇バイトの報酬は一晩15万円だ。鼻も耳もないワイヤレスマウスのような黒目の顔、そしてシルバー色の肌の宇宙人が2人の前で斃れていく。
純文学は、容赦が無くっていいんだ!
献鹿さんは作家の前に漫画家としてデビューをしている。そのきっかけとなったのは中学生の時だ。
「もともと絵本作家になりたくて、出版社に持ち込みをしました。その時にせっかくだから漫画も描いて見てもらったんです。で、編集さんと話をして、私は漫画のほうが向いているんだと思いました」
デビューは16歳で、漫画のペンネームは三ヶ嶋犬太朗。高校生でありながら人気漫画誌に執筆を続ける中、大学生になってからは担当編集者の小説も書けるんじゃない?という言葉に促されて小説を書いてみた。すると、某有名文芸誌新人賞の最終候補に残った。
「それまで純文学作品というものを読んだことがなくて、家にあった花村萬月さんの『鬱』を初めて手に取りました。その時に、ああ、純文ってこう書くんだ、容赦って無くていいんだ!と思った。花村さんで知ってしまったので、私の純文観はもしかすると歪んでいるかもしれない。けれども、容赦の無いところがすごく好きです」
漫画家と小説家の両立について尋ねると──。
「小説でできないことを漫画でやって、漫画でできないことを小説でやっている感じです。漫画は容赦が必要なことが多いので」
という答えが返ってきた。
饒舌な文体、振り幅のあるボキャブラリー、帯には“日本語ドーピングの新鋭”とも謳われている。
「いわゆる文章修業的なことはしたことがありません。けれども、漫画にもモノローグやナレーションがあるので、それをずっと書いてきたことが小説の練習になったかもしれません」
さて、宇宙人退治を続ける馬連と山井はどうなるのか? そもそも宇宙人とはどういうことか? 謎を孕んだ小説は意外な結末を迎える。
『クロワッサン』1155号より
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