『ホームレス文化』小川てつオ 著──公園生活で生まれるコミュニティと文化
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
さまざまな表現活動をしながら、2003年からは都内の公園でテント生活を開始し、物々交換カフェ「エノアール」を運営してきた著者。2005年からはじめたブログ「ホームレス文化」から記事を選び、加筆・修正したものが本書である。
じつに20年公園で暮らしているというのだから筋金入りである。生活ぶりや、個性的な仲間たち、行政による排除活動、トラブルや暴力など、さまざまな側面を読み取ることができる。
仕方なくホームレスになった人もいれば、著者のように自ら選んでそうなった人もいる。多種多様な人らが集まるコミュニティでは、問題が起きることもあるが、みなが協力しあっている。こんなふうに“社会”って生まれて育っていくのだなと感じさせる。始まり段階の社会では、地位や肩書や経済力などで他者から判定されることなく、素のその人のままでいるようなのが印象的。
ところで本書を読み、逢崎遊の第36回小説すばる新人賞の『正しき地図の裏側より』を思い出した。家から出奔してホームレスとなった少年が成長していく物語。こちらもホームレスのコミュニティが興味深かった一冊だ。
『クロワッサン』1154号より
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