『神さまショッピング』角田光代 著──ご利益を求めて出発した旅の顛末
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
スリランカ南部の神殿に奉られているカタラガマ神は、よき願いばかりでなく悪しき願いも叶えるという。その情報がどうしても頭から離れない美津紀は、夫と別行動することとなった連休に、思い切って旅に出る。彼女はなぜ、この神に惹かれたのか。旅の様子が克明に描かれる途中で理由が明かされ、「これはつらいわ……」と共感せずにはいられなかった。そしてようやく現地にたどり着いた時、美津紀は……。
という巻頭の一篇「神さまに会いにいく」のように、神さまや神聖な場所を、異なる動機で目指す女性たちが登場する短篇集。ミャンマーのチャイティーヨー、香港の天后廟、サンティアゴ巡礼、京都の縁切り神社(有名なあそこです)などなど。主人公たちが旅をする動機がどれも切実。信者でもないのに海外の寺院や教会で祈る時の居心地の悪さなど、共感できる心理もたくさんあった。そして目的達成後の主人公たちの気持ちの変化が、どれもぐっとくる。
旅先の教会や寺院で神聖な気持ちになるのは、信仰心というより、長い年月にわたり大勢の人がこの場所に祈りを捧げてきたという、人間の営みに心打たれるからなのだと気づいた。
『クロワッサン』1154号より
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