『ペンギンにさよならをいう方法』ヘイゼル・プライア 著 圷 香織 訳──気高い85歳の婦人が向かった先は、南極
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
邸宅にひとりで暮らす85歳のヴェロニカは、自分の死後、財産をどうするか頭を悩ませている。調べると亡き息子に子どもがいたと判明、会いに行くと孫にあたるその青年、パトリックはだらしなく、彼女は失望。たびたびテレビでアデリーペンギンのドキュメンタリーを目にし、南極にある研究所が資金不足に苦しんでいると知った彼女は、彼らの研究に多額の遺産を渡す価値があるか、自分の目で確かめようと南極へ旅立つ。メールを受け取った研究所のスタッフたちが止めるのも聞かず。
そう、ヴェロニカはかなり強引な性格なのである。物忘れなのか我儘なのか分からないくらい都合の悪いことには耳を貸さず、状況を読まずに突き進む。ですます調の気品と強気が混じる一人称文体が痛快。でもその性格のおかげで彼女は、極寒の地でペンギンたちと邂逅を果たす。
一方、孫のパトリックのもとには、ヴェロニカから彼女が十代の頃に記した日記が送られてくる。少女時代の彼女に何があったのか、なぜ彼女は息子(パトリックの父親)と疎遠だったのか、少しずつ事情が分かっていく。
とにかくペンギンが可愛い。私も老後にこんな冒険がしたい。
『クロワッサン』1154号より
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