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「いま、話したいことは何ですか?」──人との関わり方に変化が生まれる「聞き方」「話し方」とは?

人との関わり方でモヤモヤすることがあったら、一度「聞き方」「話し方」を見直してみては。新たな発見があるかもしれません。プランニング・ディレクター、働き方研究家の西村佳哲さんに伺いました。

撮影・中島慶子(西村さん) 文・小沢緑子

西村佳哲(にしむら・よしあき)さん リビングワールド代表。プランニング・ディレクター、働き方研究家として、主に”つくる・書く・教える”の3つの領域で働く。著書に『かかわり方のまなび方』ほか多数
西村佳哲(にしむら・よしあき)さん リビングワールド代表。プランニング・ディレクター、働き方研究家として、主に”つくる・書く・教える”の3つの領域で働く。著書に『かかわり方のまなび方』ほか多数

人は“聞いてくれる人”がいるからこそ、話せるようになる

「どんなに人は話したいことがあっても、目の前にいる相手が『聞いてくれていない』ことがわかったら、たちどころに言葉を失ってしまいます」と、プランニング・ディレクターで働き方研究家でもある西村佳哲さん。

たとえば自分が話している最中、家族や友人などの親しい相手でも上の空で聞いていたり、何かほかのことを始めだしたら……、ガッカリすると同時に一気に話す気がなくなることを思い起こせばよくわかる。

「それだけ『話す』という行為は、相手の『聞く』という行為に支えられています。別々のものではなく、どちらか一方が欠けても成り立たない“双方向の関係”にあるんです」

そう話す西村さんは、15年ほど前から年に2回ほどのペースで、参加者とともに自然豊かな場所で、朝から夜までともに時間を過ごしながら、聞くことと話すことを試みる滞在型プログラム「インタビューのワークショップ」を主宰している。この秋は長野・安曇野、来年1月は岩手・遠野でそれぞれ4泊5日で行う予定だ。

「いま、話したいことは何ですか?」──人との関わり方に変化が生まれる「聞き方」「話し方」とは?

具体的にワークショップでは、参加者同士でペアを組み、聞き役と話し役を交代しながら、聞くことと話すことを15分くらいずつ繰り返していく。その際、テーマはないし設けない。ただ、1つルールがあるとしたら「年齢はいくつか」「仕事は何をしている」などの自己紹介はしないこと。

「たとえば、ある参加者が『私は犬の調教師です』と自己紹介をしたとすると、人はついつい犬の話ばかり聞きたくなってしまう(笑)。相手の社会的な役割のほうに目が向いてしまうと、肝心のその人自身、すなわち『今、何を感じていて、話したいと思っているか』が置いてきぼりになってしまうことがあるんです」

実際のワークショップでは、参加者はお互いを知らないところからスタートするので、最初は“何も聞けない、話せない”状態に陥ることもある。中には「自分はうまく聞けなかったし、話せなかった!」と反省モードになる人もいるというが、

「“いろいろな人がさまざまな経験を試みていく場”がワークショップなので、うまくいかなくても全然構わないんですよ。聞くこと、話すことについても答えがあらかじめ用意されているわけではなく、参加者同士で『じゃあ、もっとこうしてみようか?』と試しているうちに、『何だかさっきよりいいものができてきた!』と。そんなふうに試し、刺激し合いながら生まれてくる時間と空間が好きなので、長年このワークショップを続けています」

「いま、話したいことは何ですか?」──人との関わり方に変化が生まれる「聞き方」「話し方」とは?

相手の話を聞いているときは先回りせず、後をついていく感覚

日常生活の中で、聞くことと話すことを見直してみたいと思ったら、どんなことを意識すればいいのだろう?

「ワークショップでもよくあることですが、『自分はちゃんと人の話を聞けているかな』という思いが強すぎるときは、結局、意識が自分のほうに向いてしまい、相手の話を聞けていないし覚えていないことも多いんですよ。まず、聞くときは『今、目の前にいる相手に意識を全振りして、関心を向け続ける』のがいいと思います」

その際、話の先回りをしたり否定したり安易に解決策を提案したりせず、「話し手の後を一緒についていく感覚」でいることも大事という。

自分の中の声に一番フィットする言葉を選んで話してみよう

また、話し手の表情、身振り、手振りなど、体全体に表れる“話しぶり”にも注意を向けてほしいという。

「なぜかというと、相手が話しているときの様子まで意識している人は少ないと思います。ただ、あとから振り返ってみると、その人が一番伝えたかったことは『あのときのあの表情』に表れていた、と気づくことがある。言葉の内容にとらわれすぎず、そのときの表情や動作などにも意識を向けると、相手が本当に伝えたかったことをより汲み取りやすくなります」

一方、自分が話すときに意識するといいことは?

「自分の中でまだ整理しきれていないことを話すときに『何かこう』という曖昧な言葉で表現することがあります。それはよく考えてみると、今まさに感じていることを、自分自身に向けて『本当にこれ?』『この言葉で合っているのかな』などと確認しながら探っているときなんです」

「いま、話したいことは何ですか?」──人との関わり方に変化が生まれる「聞き方」「話し方」とは?

そして、自分の感覚にジャストフィットする言葉を見つけて、それを相手に的確に話せたとき、「パッとうれしそうな表情に変わる」という。

「その瞬間をワークショップでもたくさん見てきました。それは“自己一致”ということだと思いますが、自分の中の声をよく聞けるようになると、相手の心の声にも敏感になれると思います」

さらに、聞く、話すを通して得られる醍醐味が「一緒に小さな冒険ができる」ことによる充足感という。

「前述したように、聞くことと話すことは双方向の関係。話し手は聞き手が自分に関心をもって聞いてくれているからこそ、『今まで言語化したことがなかった自分の心の領域にまで近づいていけるし、それを一番しっくりくる言葉で表現』することが可能に」

一方、聞き手のほうは目の前にいる相手の話に伴走することで、「話し手の案内のもと、自分が経験したことがないものや知らない風景を垣間見る」ことができる。

「そんな冒険をお互いに分かち合うことができる。そうイメージしてみると、人の話を聞いたり、話すことが一層楽しいものに思えてきませんか?」

日常的なごく当たり前の行為ではあるが、「聞くこととは?」「話すこととは?」と一度立ち止まって考えてみると、新たな発見や気づきがあるかもしれないし、今までの人との関わり方に変化が生まれるかもしれない。

聞く、話すは“共同作業”。一緒に小さな冒険ができると喜びが溢れてくる

「いま、話したいことは何ですか?」──人との関わり方に変化が生まれる「聞き方」「話し方」とは?

豊かな自然に囲まれた場所でじっくり向き合う

西村さん主宰のインタビューのワークショップは「人の話をうまく聞けるようになりたい」との思いで参加する人が多いというが、「ワークでは聞く、話すの両方を試み、ペアを組む相手が変わるたびに聞き方も話し方も変わっていく。その経験を通して『話し方も見つめ直せた』という人も多いです」。美しい自然に囲まれた環境の中で、丁寧に作られたおいしい食事をともにしながら取り組めるのも魅力だ。上写真は、ワーク中の風景。

ワークショップの詳細はHPへ。https://livingworld.net/nish/

『クロワッサン』1149号より

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