『密やかな炎』セレステ・イング 著 井上 里 訳──不穏な空気が漂う家族のドラマ
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
これ、連続ドラマになったら絶対に面白いだろうと思ったら、すでに本国ではドラマ化されているらしい(観たい)。全米370万部突破のベストセラーである。
オハイオ州の計画都市、シェイカー・ハイツ。裕福なリチャードソン家の邸宅が火事で焼け、一家の末っ子で高校生のイジーが火をつけたと噂が立つ。出掛けていた両親と3人の兄姉は無事だが、イジーの行方は分からない。
そこから時は11か月前へと遡り、視点を自在に変えながら物語は進む。規律を重んじる母親エレナはとりわけイジーに厳しく、兄や姉もこの妹を冷ややかな目で見ていた様子。彼らはエレナの持ち家の店子である芸術家のシングルマザー、ミアとその娘、パールと親しくなる。が、街でとある騒動が持ち上がったことを機に、エレナが密かにミアの過去を探っていくと……。
整然と整備された美しい都市と、アンバランスな人間模様が対照的。家族間、住民間の軋轢が少しずつ見えてくるのだが、無駄なシーンがひとつもないくらい、あらゆることが作用しあい、それがどこに向かうのか分からなくて息をつかせない。リーダビリティが高いって、まさにこういうことだ。
『クロワッサン』1148号より
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