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『妻はりんごを食べない』瀧羽麻子 著──妻の長期不在の本当の理由とは

文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。

文・瀧井朝世

『妻はりんごを食べない』 瀧羽麻子 著 幻冬舎 1,980円
『妻はりんごを食べない』 瀧羽麻子 著 幻冬舎 1,980円

予想外の展開をみせる物語だった。驚きと同時に、深い納得が得られる一冊である。

41歳の暁生は、4つ年下の妻、玖美と二人暮らし。ある時、法事のために玖美が京都の実家に戻るが、何かと理由をつけて戻ってこない。連絡は取れるので心配していなかった暁生だが、不在が長引き不安が芽生えていく。関西出張のついでに京都の実家に立ち寄っても玖美は留守。しかも、義母は何か隠している様子。やがて、玖美の弟の斗真をともなった妻捜しの旅が始まる。

夫婦には共通の友人がおらず、互いの家族とも密な繫がりはない。結婚前に互いの過去をほじくり返すようなこともしなかった。そのため暁生は妻について知らないことが多いと気づく。実は、彼も妻に言っていないことがある。この二人が特別なのではなく、多少相手に言っていないことがある夫婦なんて、けっこういるのではないか。

二人のなれそめや過去が少しずつ明かされていき、妻の不在の理由についてあれこれと想像させる。スリリングな話運びの果てに見つかる真相には驚いたが、本作は決して謎解きが主題ではない。人は大切な相手とどう向き合うのか、考えさせられる内容だ。

  • 瀧井朝世 さん (たきい・あさよ)

    ライター

    著書に『ほんのよもやま話〜作家対談集〜』『偏愛読書トライアングル』など。

『クロワッサン』1148号より

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