『朝からブルマンの男』著者 水見はがねさんインタビュー ──「二人がいい相棒になってくれるといいな」
撮影・園山友基 文・中條裕子
「読んでいてわくわくするような、冒険感のある話が書きたかった」と、水見はがねさん。
その言葉のとおり、表題作である「朝からブルマンの男」は、ちょっとした違和感から始まって読み進めると、そこに横たわる謎にぐいぐい引き寄せられてしまう物語となっている。好奇心をくすぐられながら登場人物たちの目の離せない行動を追いかけるうち、一気に世界に取り込まれてしまうのだ。
この作品をきっかけに、水見さんは推理作家としてデビューした。続く4作を書き下ろして、一冊としてまとまったのが本書。全編を通して登場するのは、ミステリ研究会に所属する二人の大学生たちだ。一人称は“ぼく”、人形みたいに整った顔立ちで理屈っぽく頭の切れる緑里と、その後輩で向こうみずだが何事にも懸命に取り組む志亜。いかにも古典的な探偵と、その助手といった役どころの二人がまた、何とも微笑ましいのである。
「彼女たちが会話しているのを読んで、心地いいと思ってもらえたらいいな、と」
そんな水見さんの思いが込められた緑里と志亜が挑む謎は、ほんの小さな違和感から始まるものばかり。けれどその後の展開は、ミステリとしての読み応えもしっかりとあるのがまた楽しい。
“さりげない日常の謎”が、思わぬ真相へと繋がっていく
「ミステリに“日常の謎”というジャンルがあるんです。普段の生活の中で起きるちょっとした不思議を発端にして、それについてみんなで『どうしてなんだろう?』と話し合う。その先に思いもよらない真相がある、といったものです」
表題作では、喫茶店でバイトする志亜が見かけた奇妙なお客──1杯2,000円もするブルーマウンテンを決まって週3回注文するものの、まずそうに口をつけて必ず残していく──彼に対する違和感をきっかけに物語が始まる。それに続き、学生寮に現れる幽霊の噂、母親の作るご飯が金曜日だけまずい問題、高校受験の朝に山手線で見た親友のドッペルゲンガー、鉱物研究サークル内で消えたダイヤモンド……そうした謎が次々と二人の元に持ち込まれるのだ。どれも一見すると、学生生活の延長に横たわる、何げない不思議に思える。が、実はその解決に至るまでの推理合戦は、織り込まれた知識も目が離せないストーリー展開も、実に本格的なもの。
「ミステリの定番といわれているテーマを、いろいろ扱ってみたいという気持ちがあって。密室で起きる事件や時刻表トリックに挑戦したかったんです。どの話にも、ミステリ愛好家が大好きなものを詰め込んでいます」
そして、もう一つほんのり温かい気持ちにさせるのが、緑里と志亜の関係性。当初は「謎多き私の先輩」と心の中で緑里に遠慮をしていた志亜が、数々の謎に挑んでいくうちにどう変わっていくのか。それもまた読みどころ。本格的推理と合わせ、この極上の読み心地をぜひ味わってみてほしい。
『クロワッサン』1148号より
広告