『乱歩と千畝 RAMPOとSEMPO』青柳碧人 著──推理作家と外交官。意外な二人の友情
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
推理小説の巨匠、江戸川乱歩と、第二次大戦中にリトアニアの領事館で六〇〇〇人を超えるユダヤ人にビザを発給した杉浦千畝。六歳違いの彼らは、ともに愛知五中、早稲田大学の出身だという。もしも二人に交流があり、互いに影響を与え合っていたとしたら? と、想像を膨らませて書かれた長篇だ。
乱歩が古本屋を営み、千畝が学生だった頃に二人は偶然、蕎麦屋で相席となり知り合う。その時の会話をきっかけに、千畝は外交官を目指し始める。一方の乱歩が「二銭銅貨」でデビューするのはまだまだ先の話だ。その後も二人は、幾度か再会を重ねていく。
前半は時にコミカル。職を転々とする自由奔放な乱歩と、堅実な努力家の千畝が対照的。しかし目指す道があるのは一緒である。大正・昭和の時代の変化を盛り込みながら、それぞれの紆余曲折がテンポよく描かれていく。物語が進むにつれ、やはり外交官となった千畝のパートはシリアス度を増す。そして乱歩のパートでは松本清張や横溝正史らも登場し、ミステリ好きにはたまらない。
終盤は胸が熱くなった。まったく異なる道を歩む者同士だからこそ、与え合えるものがあったのだろう。貴重な友情の物語だ。
『クロワッサン』1147号より
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