『ルーベンです、私はどこで生きればよいのでしょうか? 無国籍で12ヵ国を彷徨い、未来を求めた難民の記録』小田川綾音 著──無国籍となった男性が難民認定されるまで
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
トロシアン・ルーベンさんは1967年、旧ソ連に属していたグルジア(現・ジョージア)で、アルメニア人の父親とロシア人の母親のもとに生まれた。両親はのちに離婚。そこから端折って説明すると、旧ソ連解体の流れのなかでグルジアも1991年に独立、ジョージア民族主義を謳う政府のもと少数民族であるアルメニア民族は迫害されるように。ルーベンさんにも身の危険が迫りジョージアを出るが、どの国からも適法に受け入れてもらえず無国籍状態に。そこから長年にわたり実に12カ国を彷徨い、たどり着いた日本でも難民申請を却下される。そこで弁護を引き受けたのが本書の著者だ。以上、複雑な事情を割愛しているので、この記述だけで何かを判断しないでほしい。
難民申請を却下されても行く場所がなく、公的な生活支援も労働の許可もされないとなるとどう生きていけばいいのか。難民・移民問題に触れるたびに思う問題だ。
最終的に、ルーベンさんは難民認定を勝ち取る。そこに至るまでの過程も読み応えがある。裁判での著者の代理人としての意見陳述が胸に迫った。この複雑な状況と経緯を、実に分かりやすく伝えてくれている筆力にも感服。
『クロワッサン』1147号より
広告