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京都旅の思い出は佳味と共に。あの店の特別な一皿

京都に縁のあるおいしいもの好き6人が思わず唸った、名店の味。思い出話も交えて、京都の愉しみを伝えてくれました。

イラストレーション・村上テツヤ 文・黒澤 彩

「ぎおん阪川(さかがわ)」の河豚のとおとうみ焼き

坂東彌十郎(ばんどう・やじゅうろう)さん
歌舞伎俳優
初代坂東好太郎の三男。屋号は大和屋。歌舞伎の舞台公演のほか、映画やドラマへの出演も多数。趣味は旅行、トレッキング、俳句、カメラ。

七輪で焼きたてを。酒がすすんで困る冬のご馳走。

アラカルトで注文できる割烹です。知人の紹介で訪れて、竹の皮に手書きされた品数の多さにびっくりしました。舞台の関係でよく冬に行くので、いつも注文するのは河豚。〝とおとうみ〟は、ゼラチン質を含んでぷりっとした皮の部分ですね。これを薄口醤油に漬けて、目の前に置いた七輪で炙った、焼きたてを食べさせてくれます。初めて食べたときは衝撃を受けましたし、その後も食べるたびに感動するほど。ほかの店にもある料理ですが、なんといっても素材のよさと焼き加減が最高で、ひと口目の幸福たるや……。

ほかに、河豚の白子焼き、ばちこ(ナマコの卵巣を干したもの)焼きなども、この店ならでは。一人で行くことが多いので、ついつい周りのお客さんと美味しい話に花が咲いてしまいます。飲み過ぎに気をつけなければいけませんね(笑)。

河豚のとおとうみ焼きは皮1枚3,500円。
河豚のとおとうみ焼きは皮1枚3,500円。

◆京都市東山区祇園町南側570・199 
TEL.075・532・2801
営業時間:17時〜21時LO 日曜休。

「洋食 おがた」の活アジフライ レアに揚げて

木寺紀雄(きでら・のりお)さん
写真家
ホンマタカシさんに師事し、2001年に独立しフリーに。雑誌、広告を中心に活動し、旅取材も多い。写真集に『柚木沙弥郎との時間』などがある。

シェフと生産者の情熱に触れた忘れがたい美食体験。

いろいろな方から噂には聞いていた、洋食割烹の名店。京都取材の折に、ご一緒していたライターのPさんこと渡辺紀子さんが席の予約をとってくれて、便乗させてもらいました。高級店のようにかしこまった感じはなくて、懐かしい洋食屋さんといった雰囲気。それでいてキリッとしっかりしたものがある。こちらも気を引き締めて、よし、ガッツリ食べるぞという意気込みで行く店だと思います。なにしろ貴重なお席です。そうそうない機会だからと、お腹がぱんぱんになる限界までたくさん注文して食べました。

何を食べてもおいしいのは間違いありませんが、新鮮なアジを中のほうがレアな加減に揚げたアジフライが印象に残っています。オーナーシェフの緒方博行さんは、素材への愛が深く、生産者との関係を大切にされている料理人で、魚は静岡県焼津の『サスエ前田魚店』から仕入れていると聞きました。

その後しばらくして、幸運なことにPさんとの取材で、サスエ前田魚店に行けたんです。洋食おがたで食べたあのアジはここから来ているのかと感慨深かったですし、情熱を持った人同士の繋がりから料理が生まれることがありがたく、うれしかった。緒方シェフの技術はもちろん素晴らしいのですが、それだけではない、おいしさの秘密を垣間見たような気がします。

活アジフライ4,200円。
活アジフライ4,200円。

◆京都市中京区等持寺町32・1 
TEL.075・223・2230 
営業時間:11時30分〜14時30分(13時30分LO)、17時30分〜22時(21時LO) 火曜休、月2回不定休。

「燕(えん)」のからすみ餅

近藤サト(こんどう・さと)さん
フリーアナウンサー
アナウンサー、ナレーターとしても活躍。2011年から日本大学藝術学部放送学科特任教授としてアナウンスの指導等も担当している。

おいしいご縁に導かれて、晩餐の〆はこれで決まり!

よく着物を着るようになって仕事のご縁をいただき、京都ライフが始まったのは2019年。年に何度も赴いて、硬軟、甘辛、あらゆるお店を行脚しています。

京都駅八条口に店を構える『燕』は、着物問屋の会長で、業界きっての食通でもある裏井紳介さんに連れていっていただいて以来、幾度となくご一緒しているお店。すべての料理をお薦めしたいところですが、涙を呑んで一品だけ推薦するなら、私がここでの晩餐を締めくくるトリと決めている〈からすみ餅〉です。

かわいい焦げ目のついた自家製の餅は、香ばしい歯応えの後にもち米の甘みがふわっと広がる、と思ったとたん、これも自家製のからすみの、ねっとりした食感にあたる。丸みのある塩味と魚卵の濃厚な旨みが口に広がり、鼻腔に抜ける。初めて食べたとき、もうここ以外でからすみ餅を食べることはないだろうとさえ思いました。

大将の田中嘉人さんは、かの『和久傳』からニューヨークの伝説的な精進料理店『嘉日』を経て、2013年にこの店を開かれました。そんな華麗なご経歴にもかかわらず、ご本人はいたって気さく。お客さんとの距離のとり方も絶妙で、料理に誇りを持ちながらも〝引き〟の会話ができる、料理人の鏡のような人です。

京都の着物の「縁」と「燕」、丸いからすみ餅の「円」。私には偶然とは思えないのです。

からすみ餅1個800円。
からすみ餅1個800円。

◆京都市南区東九条西山王町15・2 
TEL.075・691・8155 
営業時間:17時30分〜23時 日曜休。

『クロワッサン』1137号より

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