段田安則さん「演劇を始めた頃と何も変わっていない感覚なんです」
撮影・天日恵美子 スタイリング・中川原 寛(CaNN) ヘア&メイク・藤原羊二(UM) 文・望月リサ
この数年の間に、読売演劇大賞最優秀男優賞、芸術選奨文部科学大臣賞受賞、そして紫綬褒章を受章した紛うことなき日本を代表する名優。しかし段田安則さんときたら、「ちょっと前まで、自分でもうまいと思ってたんですけど……」と、冗談めかして前置き。
「最近、小手先で誤魔化している感じが自分でだんだんわかってきまして、もっと真面目に芝居と向き合わねばと思うようになりました。市井の人と政治家、侍の役では芝居を変えているつもりだったのが、そんなに変わっていないような気もしてきまして」
本人はそう言うが、演じる役の時代や国籍、年齢や立場、生きてきた時間までを佇まいで感じさせる俳優だ。
「そう見えているならよかったです。毎回、作品の中でひとつでいいから、自分が今までしてこなかったことだったり経験していない感覚だったりが見つけられればいいな、と思いながらやってはいるんですけど」
そうして一作ごと積み上げてきたものが確かなキャリアを形成し、今や若い俳優から憧れられる存在に。
「年齢からいえば、若い頃に憧れていた滝沢修さんや北村和夫さんと同じ年代ですが、全く近づけていなくて、演劇を始めた頃と何も変わっていない感覚なんです。もし僕の芝居がよいと思っていただけているとしたら、若い頃からよかったんですかね(笑)」
インタビュー中、段田さんは終始こんなふうに茶目っ気を発揮。軽妙なトーンで周りを笑わせてくれた。
「結局、目の前の人に笑っていただくのがうれしいんだと思うんです。舞台では、自分……だけの力ではないですが、何かをすることでお客様が笑ってくださったり、時には怒ったり泣いたりしてくださる。心が動くのを感じるのが好きだから続いているんです」
目前に控える舞台は、人生の後半戦に入りながら日々の悩みに右往左往する人々を描く『やなぎにツバメは』。
「日常を描きながらどこにも無理がない、流れるような台本です。魅力的な俳優さんたちが揃っていますから、このメンバーでやったらどうなるんだろうと、僕自身も楽しみなんです」
最後に質問。もし生まれ変わったら、やっぱり俳優を目指しますか?
「もっと見た目が麗しく芝居もうまい人に生まれ変わるならやりたいけど、違う仕事もいいですね。世の中のためになる国連職員とかいいですね」
『クロワッサン』1135号より
広告