水川かたまりさん出演の映画『死に損なった男』彼は人生で何をつかむのか?
撮影・五十嵐一晴 スタイリング・岩田沙帆 ヘア&メイク・松崎さとみ 文・兵藤育子
「最初にお話をいただいたときは、にわかに信じがたかったです。主演映画って字面的にもなんだか“ドッキリ”っぽいじゃないですか」
本作で映画初主演を飾った、空気階段の水川かたまりさん。しかも初長編監督作『メランコリック』が国内外の映画祭で絶賛され、映画好きを唸らせた田中征爾監督の次作としても注目度の高い映画で、だ。
その田中監督によるオリジナル脚本が、出演の決定打になったようだ。
「駅のホームから飛び降りようとしている人間が、たまたま隣の駅で人身事故があったせいで死ねなくて、死んだ人が幽霊になって現れるっていう設定が魅力的で。最初の数ページで面白い話だと思いました。僕がコントでこの設定を思いつけたら、万歳するだろうなっていうくらい」
水川さんが演じる関谷一平は、その“死に損なった男”。お笑い芸人の構成作家として仕事に追われ、心身ともに疲弊している。自殺を試みるも、死ぬことの叶わなかった翌日、隣の駅で死んだ人物のことが気になってしかたなくなり、身元を調べて葬儀にまで参列。
やがてその男、森口友宏が一平の前に幽霊の姿で現れて、娘に付きまとっている男を殺すよう依頼。我の強いオジサンの幽霊に脅迫される、ちょっと気弱な構成作家という構図がおかしみを誘うのだが、共演シーンの多い友宏役の正名僕蔵(まさなぼくぞう)さんについてはこう語る。
「芸人が誰もいない現場っていうのがまずないので気負っていましたが、正名さんには本当に優しくしていただいて。基本的に僕が受けというか、とにかく殺せっていう友宏の要求をかわしていくんですけど、すごくやりやすかったですね」
「相方以外と芝居をやるときって、会話のリズムを掴みづらいことがけっこうあるんですけど、正名さんとは最初から気持ちのいいリズムでやり取りできました。もしかしたら、もともと一つの生き物だったんじゃないかっていうくらい、波長が合いましたね」
コントで多彩な役を演じているものの、映画でひとりの役をじっくり演じるのは、やはり勝手が違った。
「コントはお客さんを笑わせるっていう一個のはっきりした目的がありますけど、映画の場合、怖がらせたり、ちょっと泣かせたり、ほっこりさせたり、いろんなベクトルの狙いがありますからね」
「でも今回うれしかったのが、コントの舞台ではできないような本格的なアクションシーンを演じられたこと。次はぜひ銃を撃てる映画に出てみたいですね」
あて書きされたと思うほどのハマり役で、物語の中では幽霊に翻弄されながら、観る側を翻弄する水川さん。その勇姿をぜひ劇場で!
『死に損なった男』
人生に疲れた構成作家が幽霊に振り回され、奇妙なバディになっていくホラーあり、コメディあり、ちょっぴり感動ありの物語。水川さん&正名さんの凸凹コンビのかけ合いが癖になる。監督・脚本:田中征爾 出演:水川かたまり、正名僕蔵、唐田えりか、喜矢武豊、堀未央奈 2月21日(金)より、東京・新宿バルト9ほかにて公開。
『クロワッサン』1135号より
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