新しい記憶が失われ古い記憶が残る、認知症の世界を知る
撮影・土佐麻理子 イラストレーション・イオクサツキ 通訳・石川裕美 文・松本あかね
不安が原因で起きる“困った行動”は周りの対応で防げる
「一般的に認知症と見なされている症状は『中核症状』とその周辺症状である『行動・心理症状』に分けられます」
と本田美和子さん。
中核症状としては脳細胞の変性によって記憶力の低下、言葉が理解できない、時間や場所がわからなくなるなどの症状が挙げられる。一方、行動・心理症状の場合、中核症状を直接の原因としながら、本人の周りの環境や状況を背景としてさまざまな症状が見られるという。
「本人の中で不安な気持ちが高まってくると、行動・心理症状の引き金になります。『今何時?』『今何時?』とくり返し聞くのは、瞬間瞬間の記憶が保持できずに不安になるからなのです。ですから、不安のもとを取り除くと症状も治まっていきます」
認知症はいまだ効果的な治療法が見つかっていない。しかし、安心して過ごせる環境を整えることで行動・心理症状を抑え、本人も周りも落ち着いて過ごすことが可能なのだ。
認知症の人の困った言動・行動の多くは、「忘れる不安」から起きる周辺症状といわれるもの。このことを理解するには根本となる中核症状との区別が必要だ。
認知症の中核症状
・記憶力低下
・判断力低下
・言葉が理解できない
・時間や場所がわからない
不安・幻覚
「忘れる」ことによる混乱から不安が生じる。夫の姿を探し回るなどの症状も。
暴力・暴言
事情や感情を言葉で説明できないため、拒否や防御の表現として起きる。
不眠
時間の感覚がわからなくなることに加え、不安や日中の活動量の減少が影響。
歩きまわる
「仕事に行く」など過去のルーティンの記憶が影響している可能性がある。
意欲がなくなる
防御の一種。周囲とのコミュニケーションを遮断、内側に閉じこもってしまう。
『クロワッサン』1134号より
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