はじめての介護:失敗のない高齢者向けの自宅の整え方
イラストレーション・保立葉菜 文・殿井悠子
トイレ
ポイント
扉を引き戸または外開き戸にする
スペースを広げる
手すりを付ける
便座を使いやすくする(昇降式便座)
洗浄レバーやペーパーホルダーの位置を変える
寝室に水洗トイレを設置する
確認するポイントは、トイレ内の移動動作、排便姿勢、便座の高さ。用を足すときに体を回転して座るのか、手をついてから座るのか。車椅子利用者の場合は、どんなアプローチで便座に移乗するのか。排便姿勢が前傾姿勢の人は、可動手すりを使うと踏ん張れる。リウマチの人は膝を曲げる動作がつらいので、便座が昇降するタイプのトイレ(下の写真)を利用しても。
広さは、車椅子の人はスペースを要するが、片麻痺の人だとかえって移動が大変に。ペーパーホルダーの位置も意外と重要。扉は事故時に救助できるように、引き戸か外開き戸で。警報ボタンは、倒れたときに押せるよう、床面に近い場所に。
浴室
ポイント
浴室暖房を取り入れる
手すりを付ける
すのこを置く
バスボードを設置する
全身用シャワーを導入する
家の中でもっとも事故の多い場所が浴室。事故原因では、浴槽内の溺死に次いで、温度差による心肺停止があげられる。温度差に関しては、浴室乾燥機の設備が一般化したおかげで、暖房機能で浴室内の空気を暖めることができるようになった。
浴室内での移動、浴槽への出入り、洗い場の椅子からの立ち上がりなどのために手すりを設けることも多い。ただ手すりだらけになるとかえって邪魔になるので、動きを想定して利用者が楽になる場所に設置したい。最近は、ユニットバスにも後付けできるタイプや、シャワーと一体型になった手すりもある。
浴室への出入り箇所には、すのこを置いて床をフラットにする(下の写真)と、つまずき防止に。また浴槽内へ座りながら移乗できるバスボードの設置も、またぐ際の転倒防止に。
湯船に浸からなくても全身を温め、ポカポカが続く全身用シャワー(下の写真)は、プチ改修で介護負担の大幅軽減に。
玄関
ポイント
玄関椅子を設置する
手すりを付ける
昇降台を取り入れる
玄関ドアを引き戸にする
階段をスロープにする、昇降機を設置する
靴の脱ぎ履きがひと苦労と感じてきたら椅子の設置を。折りたたみ式なら邪魔にならない。手すりは用途に合わせて、移動時は横手すり、立ち上がり時は縦手すりを。
昔ながらの木造住宅なら三和土から廊下への段差が45㎝あるので昇降台も検討しよう。車椅子利用の場合は、玄関扉を引き戸にしたり、また屋外からの階段をスロープにしたり昇降機を設置したりして、災害時の避難ルートを確保する意味でも動線を考えたい。
室内
ポイント
断熱窓、断熱部屋にする
まず室温は“全館暖房”の考えで、断熱シートを窓に貼るなどして冬のヒートショックを防ぎたい。照明は、影と明るい部分の差をできるだけフラットにすると、つまずき防止になるため、全室100W程度でほこりが見えるくらい明るく。寝室には夜間のトイレ用に部分照明も活用して。壁は、ツルッとした真っ白なクロスだと眩しいので、ベージュ系などに。調湿機能が付いてニオイを吸収するタイルやクロスもある。
廊下
ポイント
滑り止めワックスをかける
横手すりを付ける
日本の住宅の廊下の大半はフローリング仕様。移動時に転倒しないようにすることが重要だ。滑り止め用のワックスを塗ったり、歩くところだけでもパット状のマットを敷いたりすると、大掛かりなリフォームをせずに転倒予防策ができる。
伝い歩きをしやすくするなら、水平手すり(下の写真)を設置するのも考えたい。その際、高さは標準仕様ではなく、使う人の大転子 (だいてんし)(骨盤の下あたり)に合わせるのが、体を支えられる最適解。
階段
ポイント
シーリングファンを付ける
階段のバリアフリー修繕については、昇降機や手すりなどの手段に目が行きがちだが、見落としがちなのが寒暖差によるヒートショック。廊下や階段などの共用部は、部屋との温度ムラが出やすい場所だ。
「高齢者は元気な方でも血圧変化が起こりやすく、体温を維持する機能も低下しています」
階段照明にシーリングファンを組み合わせて、階段上部に設置すれば、フロアごとの温熱環境差を緩和できる。
広告