パフェは、私にとってはアート。その場限りのはかなさもいいです。
撮影・黒川ひろみ 文・三浦天紗子
もはやブームではなく、食文化として定着しつつあるパフェ。その勢いを牽引してきたパティスリーとインフルエンサーが、魅力を語り合いました。
ラウラ・コピロウさん(以下、ラウラ) きょうは取材でふたつも新作パフェを食べられると聞いて、ものすごく楽しみにしてきました。(パフェをひと目見るなり)うわー、美味しそう!
宮田真代さん(以下、宮田) ラウラさんはパフェを前にすると、5歳児みたいになる(笑)。本当に美味しそうに食べてくれるからうれしいんですよね
ラウラ いまいるのは3階のスイーツバーだけれど、最初は2階にあったでしょ。というか、その前の三軒茶屋のときからだから、通い始めて4年?
宮田 私がシェアキッチンで始めた頃からだから、そうかも。
ラウラ 誰かにすごいパフェが三軒茶屋にあるんだよと教えてもらって、早速出かけていって、パフェを食べたら感激したんですよ。さらに真代さんに「“できたてしょーとけーき”もいかがですか」って言われて、私はあまり普段ケーキは食べないんですが、せっかくだからと食べたら、これも本当に美味しくて、びっくりしました。パフェは果物の移り変わりに合わせて毎月新しいのが出てきて、しかも見たこともないようなアイデアがポンポンと入ってる。たぶん“計画的な無計画さ”なんだと思うけれど、それで即興的に新しいパフェができてしまうから、いちばんすごいと思う。天才の証拠。
宮田 マジで無計画なだけなんですけれど、褒めてくれてありがたいです。
ラウラ だって、パフェの試作をしないんですよね?
宮田 しないですね。変わった要素を入れるときだけ、たとえばクリームが重すぎるかなと思ったらバランスを見るとか、具材の量を増減するとか微調整のためにすることはあるんですが、何を入れたかで味はある程度わかるので、ほとんどしない。一方で、焼き菓子とアイスはものすごく細かく試作します。砂糖の量とかも10g単位で変えて、片っ端から味見して決めます。
パフェには、創り手が生み出す物語がある。
ラウラ パフェの専門店を作りたいと思ったのはなぜなんですか?
宮田 パフェのためというより、デザートのため。私はずっとレストランでパティシエとしてやってきた経験から、フレンチのコースのデザート以降を切り取ったお店を作りたかったんです。お鮨や焼き鳥ってデザートが弱いですよね。ならば、本格的なデザートと食後酒が楽しめるお店があってもいいじゃないかと思ったし、夜だけ営業するこういうカウンター形式にすれば、お客さんの目の前でパフェやデザートを作りながら「この生産者さんはこんなところにこだわっていて」とバックグラウンドをいろいろ話せる。商品に付加価値をつけて、ここでしか提供できない、味わえない、そんな体験をしてもらえたらと。
ラウラ まさにそのとおり。ライブ感というのかな、パフェを食べに来ているんですけれど、体験型イベント的な楽しさがある。真代さんは手を動かしながらおしゃべりもできるのがすごい。
宮田 私はそこがけっこう得意なところで。強みを活かしながら、よりよい素材の組み合わせを提供できたらいいなというのがお店のコンセプトですね。
ラウラ 私がパフェを好きな理由のひとつは、食べる順番がある程度決まっているところなんですよね。
宮田 平皿で出すフレンチのデザートをアシェットデセール(皿盛りデザート)と言いますけれど、たとえば秋だから紅葉のお皿を使って……と季節感を自分なりに演出して盛りつけても、わりとお客さんに伝わらないのは悩みだったんですね。
ラウラ 平皿よりもパフェグラスのほうが、創り手の意図というか物語が見えて、なんかワクワクします。
宮田 私はお出しするときに「上から順番に召し上がってください」とか「途中で混ぜて召し上がってください」とか、そのパフェによって食べ方を言うようにしているんですよ。
ラウラ パフェって映画みたいだなと思っていて。アート性がある。だから私はパフェを人とシェアしない主義。映画に行って、どこかのパートだけ観ないとかあり得ないですよね。
宮田 ラウラさんみたいに感じてもらえると、やりがいがあります。
ラウラ パフェはいつも2種類ありますよね。旬のフルーツが使われているから来るたび楽しみなんです。果物以外に何を組み合わせるかって、どうやって考えていくんですか。
宮田 2つのうちのどちらかを月ごとに変えるようにしているんですね。今回はひとつは栗、もうひとつはりんごに決めました。そこから「このメイン食材に合う要素は何かな」と思いつく限りバーッと書き出すんです。
それをベースに、フルーツはフレッシュにするかコンポートにするか、カリカリの食感は何で出すか、ジュレの風味はどうするか、などを考えながら、構成を決めていくのが私のやりかたです。私は絵にしないと想像がつかないので必ずノートに簡単な構成図を描いて、味の奥行きやバランス、余韻までの味を想像しながら組み立てていきます。
ラウラ このノートもすごいですね(下写真)。真代さんの歴史が詰まっている。
宮田 ノートに全部描くは描くんですけれど、見返さないし、そもそも後で捨てちゃうんです。私がその場で作るのに必要だから絵にするけど、何ならノートじゃなくて裏紙でもいい。描いたら記憶から飛ばす。
ラウラ 過去のことを考えすぎてる人がすごく多いから、いいと思う。
宮田 私の中でパフェはアートという位置づけなんですね。一度、ある題材で作品を作ったらそれで満足というか、次は違うものに取りかかりたくなりますよね。
ラウラ ところで真代さんは、なぜパティシエになろうと思ったんですか。
宮田 私はもともと美容師になりたかったんですね。進学した高校が総合学科で、入学時に職業診断みたいなものがある。そのとき私の適職第1位がパティシエで、美容師は7位くらいだったかな。それでいちばん向いているのなら「目指そう」と決めました。
ラウラ それ、知らなかったかもしれない(笑)。でも面白い。
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