料理家・山田英季さんの案内で、かっぱ橋でフライパンと鍋を探す。
撮影・中川 淳 文・輪湖雅江
[フライパン・鍋]@釜浅商店
見極めたいのは形と素材。 万能よりも、自分に合う有能を。
いい道具は形にも素材にも理由がある。訪ねたのは『釜浅(かまあさ)商店』。職人による手仕事の品も多い人気店だ。
「フライパンは最初から万能選手を探すより“この料理を作りたい”というビジョンがあると選びやすいですね」
と商品開発も手がける和田洋一さん。
肉をバリッと焼くなら鉄のフライパン、炒飯なら中華鍋。自分にとって有能なものを、というわけだ。
いわく、「コーティングされているか否かも重要。手軽に料理したい人は、フッ素樹脂などで加工したものがストレスなく使えます。ただコーティングは遅かれ早かれ剥離して品質にムラが出る。長く使えるものに魅力を感じるなら、鉄などの生(き)素材がおすすめです」
ちなみに山田さんは両方使うそう。
「香ばしさが欲しい時や野菜炒めには圧倒的に鉄のフライパン。熱を保つからか水分が飛ぶからか、おいしさがまったく違うんです。逆に、炒めてから長時間煮込む料理には、コーティングされた深型がいい気がします」
さらに、気になる道具がもうひとつ。それは卵がふんわり焼けるという銅の卵焼き器。長方形の関西型と正方形の関東型があり、家庭で使いやすいのは関西型。銅の厚みもいろいろあって、
「調理道具は基本的に厚手がいいんです。でも卵焼き器入門としてなら軽くて扱いやすい薄手も選択肢に入れたい。これは行平などの鍋も一緒です」と和田さん。
味噌汁を作るだけなら薄手の鍋で充分。汁物も煮物も作りたい人は厚手がいい。厚いと熱もゆっくり伝わって、焦げつきにくいのだ。
「熱源にもよりますね。IHの場合はアルミが使えないので、厚手のステンレス鍋もいいと思います」
そう言って取り出した行平鍋を、「これは絶対に使いやすくて洗いやすいはず」と気に入った様子の山田さん。
「直径18cmというのもいいんですよ。15cmだとインスタントラーメンが入らない可能性があるので……」
さて、最後はせいろ。野菜も魚も蒸すだけで旨味が引き出され、肉まんも驚くほどおいしくなる。
せいろ料理が大好きな山田さんの選択基準は、とにかく丈夫なこと。毎日ガンガン使っても平気な頑丈さが欲しい。その言葉に和田さんも深くうなずいた。
「何度も使うからこそ料理の腕も上がる。よく道具を育てるといいますが、いい道具は人を育てるんです」
フライパンと卵焼き器|用途に合わせた素材を複数持ち。 フライパンは24cmか26cmを。
食材に熱がまわっておいしく作れるのは少し大きめの直径24㎝や26cm。
打ち出しとは金属を鎚で叩いて丈夫に鍛える技法で、表面に細かい凹凸ができ油なじみがよくなる。日本で唯一打ち出しのフライパンを作る『山田工業所』製。柄はビスではなく溶接留め。汚れ溜まりがない。
ステンレスとアルミを重ねた4層構造で軽量。内側はフッ素樹脂加工。
熱伝導のいい銅製。チヂミやアスパラガスなどを焼く小さなフライパンとしても重宝する。
行平鍋|熱がゆっくり伝わる厚手が人気。 おすすめは直径18cm以上。
行平(雪平)とは主に、注ぎ口と取っ手がついた片手鍋のこと。よく見るのは槌目が並ぶ打ち出しの行平鍋だろう。
野菜を茹でる、出汁を取る、ホワイトソースを作る、チャイを淹れるなど、いろいろな用途に使う人は厚手を選ぶとよい。理由は厚みがあると熱がゆっくり伝わり、焦げつきにくいから。
サイズは直径15cm以上がよく使われるが、あれこれ便利なのは少し大きめのもの。
アルミをステンレスで挟んだ3層鋼。厚手で耐久性もあるうえ軽量。IHでの使用可。新潟県燕市の『本間製作所』製。
せいろ|ポイントは素材。国産材なら水分を調整し上手に蒸しあがる。
せいろには和せいろと中華せいろがある。前者は木蓋なので密閉性が高く、餅や赤飯などと相性がいい。後者は保温性が高く、竹で編んだ蓋から蒸気が抜けてすっきり蒸しあがる。
いいせいろの条件は、材質が良いことと、つくりや留めが丈夫なこと。
茶碗蒸しや肉まんにも対応する深型。別売りのすのこ網を使うと上下2段で蒸し分けができる。手入れはサッと洗って拭くだけ。素材は国産ヒノキ、留め材は山桜の樹皮と金具。一枚の薄い板を曲げて成形する曲げ物の技が用いられている。
釜浅商店
1908年創業の鋳物店が原点。4代目店主は台所道具の目利きとして知られる熊澤大介さん。隣には包丁売場もある。
●東京都台東区松が谷2・24・1
TEL.03・3841・9355
営業時間:10時~17時30分 年末年始休
『クロワッサン』1117号より ※価格等は取材時のものです。