焼き菓子作りで心落ち着く、山下りかさんのひとり夜ふかしの楽しみ。
一日を締めくくる夜時間。心身を癒やすためにどんなことをしているのか。
撮影・黒川ひろみ 文・嶌 陽子
焼き菓子作りはどこか瞑想にも似ています。
部屋いっぱいに広がる、オーブンからの甘い香り。翌朝に食べる焼き菓子を作るのが、山下りかさんの夜の楽しみのひとつだ。シンプルな生地に庭でとれた桑の実や木いちご、または自家製の梅ジャムやばらジャムを加えるなど、4年前から暮らす鎌倉の自然の恵みもふんだんに取り入れている。
「朝食はしっかりお味噌汁とごはんを食べるときもあれば、焼き菓子で軽くすませるときも。明日の朝は焼き菓子を食べようと思い立ったときに作ります。一晩寝かせておくとおいしくなるし、何かを作るという行為は瞑想にもつながる気がして。『どんな味になるかな?』などと想像が膨らみ、同時に心も落ち着くんです」
生地をオーブンに入れたら、竪琴の一種である弦楽器、ライアーを奏でながら焼き上がりを待つ。これもまた心身を安らかにしてくれる時間だ。
「ライアーは“静けさを呼ぶ楽器”といわれています。音がとても小さく響くので、響きを聴くためには自分の内側を鎮める必要があるからです。耳をすませながら手を動かしていると、自然と気持ちが平静になっていきます」
シンプルな材料で作る甘い幸せ。
パウンドケーキの材料は全粒粉とベーキングパウダー、メイプルシロップ、菜種油、水だけ。ここに庭の木の実などを混ぜ込むことも。あっさりした甘さが美味。「グラノーラを作ったり、クレープ生地を仕込むこともあります」。ろうそくの炎も心を落ち着かせてくれる。
焼き時間にはライアーを奏でて。
ライアー奏者として活躍する山下さん。「抱え込んで弾くので弦の振動が骨まで届き、まるでマッサージを受けているようなリラックス効果もあるんです」
『クロワッサン』1123号より