『異国の味』著者、稲田俊輔さんインタビュー。「『現地のまま』か『コメに合う』か常に葛藤で」
撮影・黒川ひろみ 文・遠藤 薫(編集部)
「『現地のまま』か『コメに合う』か常に葛藤で」
〈日本人ほど(世界の料理を)積極的に食べたがる民族はなかなかいない、ということは言えるのでは〉。
本書は南インド料理店『エリックサウス』総料理長・稲田俊輔さんの、飲食店プロデューサーとして、また生来の食べること好きの記憶を基にした、日本に外国料理がどう根付いたかを考察したエッセイだ。
中華料理であれば町の中華料理店から『バーミヤン』『紅虎餃子房』を経て現在のガチ中華、タイ料理がまとっていたお洒落サブカル色、イタリア料理では’80年代のイタメシブームから『カプリチョーザ』の登場、ナポリピッツァブームまで。
読み進めると幾度も、そうあの頃お洒落してアレ食べに行ったわ、とかつてのボーイフレンドを思い出すごとくキュンとする。
この読む者が感じるエモーショナルさはどこから来るのでしょう。
「僕も事実を客観的にというよりは、自分の目から見た個人的な風景を文章にしました。ひとつの視点からの体験を素直に書いたので、そう伝わるのかもしれません」
これらの来し方を追った経緯は?
「自分が南インド料理という日本であまり知られていないものを仕事にすると、何かと他の外国料理と比較するんです。『イタリア料理はあんなにスムーズに普及したのに、南インド料理がなかなか広がらないのは何で?』とか、自分も客としてマイナーなものを食べたとき『これはこの後、普及するのかな』とか。そういったことをSNSなどでメモ代わりに書き留めていたものを、過去の記憶も含めてまとめました」
改めて気づいたことは?
「どの国の料理も、たどっている道は全部一緒だなってことですね」
マニアック対ポピュラー、対立の悩みはどこの業界でも。
外国料理がアレンジ一切なしで本場そのままであることを尊ぶのを、稲田さんは〈原理主義〉と呼び、〈僕自身も完全なる原理主義者〉と言う。〈「うまいかマズいかは問題ではない。とにかく現地そのままであってほしい」と願うのが(原理主義者の)基本的な考えです〉
大抵の外国料理人は本場の味を持ち込もうとするが、経営者は馴染んだ味を求める多数の客と少数の原理主義者の間で悩み、結果、多くの場合で味が日本式に〈魔改造〉されるというのが稲田さんの見識だ。
「最終的にコメと一緒に食べるかは別にしても、コメに合う味に流れるというのは間違いなくある。ハーブやスパイスは減らされ、旨みと甘みが強くなる」
どの国の章でも同じことをループして書いている錯覚に陥ったというが、意外なところから共感の声が届いた。
「自動車メーカーとか音楽関係のかたから、『自分たちの業界も同じだ』と。最初はマニアックを目指すのにどんどんポピュラーなものになると。新しいものを出さないといけないのに結局売れるとわかっているところに寄せる。それでは未来がないというジレンマをすごく言っていただいて。自分もとても共感できるところでしたね」
『クロワッサン』1114号より