聞きにくいけど、待ったなし!今すぐ親と話すべき8つのこと。
今のうちに話しておくべきことはどんなことなのだろう?
撮影・黒川ひろみ 文・生島典子
「お金のあるなしにかかわらず、まず、親の覚悟がとても重要です」と、ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんは語る。
親が、自分で自分の人生を始末しようと考えて対策していればスムーズにいくが、覚悟がない場合は、子どもがやってくれるだろうと甘えて、多くのことが放置されてしまう。
「親に覚悟がないと子どもが絶対に苦労します。親が後期高齢期の75歳になったら、具体的な対策を始めるように促しましょう」。
このとき、問いただすのではなく、親の意思をとことん聞き、親子で対策についての話し合いを。自分の道を自分で決められると、親も安心して過ごせるようになる。
1.資産状況
急に入院した親の財産状況がわからず、 バタバタして医療費を立て替えてしまった。
親の財産状況を把握するため、畠中さんは「貯金簿(R)」を推奨している。貯金簿は、預貯金と運用資産などの残高を年金受給日のある偶数月の年6回記入するもので、1年間の財産の変化がわかる。
「親のお金がどのくらいあるかだけでなく、どのくらいのペースで減っているか、推移を見ることが重要です」。
ノートなどへの記入でもOKだ。
親の財産の全容がわからないと立て替えすべきかどうかの判断もできない。
「基本は親のお金から使って、子どものお金に手をつけてはいけません。子どもが親にお金を出して、親を見送ったあとに生活保護を受けることになるケースが増えています。親のお金が本当にないなら、親自身に生活保護を申請してもらうことも検討しましょう」
親のお金を立て替えていても、相続時に清算することは難しい。
「最初から立て替えはしないのが大原則。どうしても立て替えが必要な場合は、介護している人は少なく、介護していない人は多く立て替えるなど、きょうだい間で話し合うことが大事です。法的な強制力はありませんが、親のために使ったお金は記録しておくと、相続のときの交渉材料にはなります」
2.急な相続
親に借金があった。急な相続で放棄するかどうかのジャッジができず……。
「親が亡くなったあとに借金があったとわかると、すぐに相続放棄を選択してしまう人がいますが、ちょっと待って」と、畠中さん。
相続には、「資産も借金もとにかく全部相続する」という単純承認と、「資産も借金もすべて放棄する」という相続放棄がある。そして、その間に「プラスでもらった相続財産の範囲内でマイナスの財産(借金)も相続する」という限定承認という方法があることを知っておきたい。
「つまり、マイナスのほうが多くならないように相続する方法です。借金が多ければ相続できる財産はゼロになり、プラスの財産のほうが多ければその差額は相続できます。実際に相続財産を精査してみたら、プラスの財産のほうが多いこともあるので、財産の内容がわからない場合は、限定承認を選んだほうがいいでしょう」
ただし限定承認を選ぶ場合は、相続発生から3カ月以内に手続き、しかも相続人全員での申請が必要になる。
もし借金があるとわかっているなら、どう対応するのか、生前に親と話をしておくのが望ましい。子どもが親に代わって返済する場合、名義変更などが必要で、手続きが面倒になるからだ。
3.延命治療
親が意識不明。家族間の意見が割れ、親の延命治療が高額になってしまった。
病気や延命治療の方針などについては、親が元気なうちに意思確認をしておきたい。
「エンディングノートなどにも記入する欄がありますが、身元保証会社の『NPO法人りすシステム』の生前契約の中の『医療上の判断に関する事前意思表示書』はわかりやすく、参考になります。(https://www.seizenkeiyaku.org)」
病気の診断告知を希望するかどうか、終末期における治療・療養の希望(どこでどんなケアを受けたいのか)、口から食事をとれなくなったときの栄養補給についての希望(鼻やおなかに管を通して栄養をとりたいか、口からとれるものだけでいいのか)、延命処置、植物状態になった場合の治療、臓器移植が必要になったとき、臓器提供に関してなど、各ケースで自分が受けたい医療の範囲を親に示しておいてもらうことが必要だ。
「このようなシートを参考にしながら、現状での希望を家族が聞いておくことが大切です」
もしも本人が意識のない状態になった場合には、治療方針をめぐって家族間の意見が分かれることも出てくる。本人の意思がある程度わかっていたほうが、家族も判断しやすくなるため、事前に意思表示してもらっておくことが大事になる。
4.贈与問題
きょうだい間の贈与格差が発覚。腹立たしい思いに。
親がきょうだいの中の1人に教育費やマイホーム資金の贈与をしている場合、贈与を受けていないほかのきょうだいにはどうするのかということが問題になる場合がある。
「格差を埋めないとトラブルになりそうな場合は、ほかのきょうだいにも同程度の贈与をしてもらうか、贈与を受けていないきょうだいに多めに相続させるように親に遺言書を書いておいてもらうかのどちらかを検討してください」。
ただし、2024年から贈与税の暦年贈与の持ち戻しの期間が、3年から7年に段階的に延びて、2031年以降は、亡くなる前の7年間に行った贈与は、相続財産に持ち戻される制度になる。贈与を行う場合は、早めの対策を。遺言書で調整する場合は、法律上最低限保証されている遺留分を侵さない範囲で、相続財産の配分を是正できるのか考えてみよう。
「贈与を受けた子どもが、『相続のときにはほかのきょうだいに多めにあげてもいいよ』と言うのがいちばんいいのですが、そうならない場合は、贈与を受けていない子どもが親に『遺言書に書いておいてほしい』と言うべきですね」。
遺言書は、自分で書いた自筆証書遺言書を法務局で預かってくれる「自筆証書遺言書保管制度」を利用するのがおすすめ。
5.介護費用
介護費用の管理に関して、家族間での意識の違いに困っている。
例えば、妹が親の介護を担っている場合、親の口座からお金をおろして使っているのが妹だとすると、その使い方が適正なのかどうか、ほかのきょうだいは知ることができない。
「親の介護を任せている負い目があるのと、介護をしていない側は、している側から『介護をしていないのだから、その分お金を出して』と言われるのが怖くて、お金のことは聞けないという心理があります。
でも、介護をしているほうは絶対的に不公平感を持っているので、そこは聞くしかないと思います。『お金を出して』と言われたら、出せる範囲で出すしかないでしょう。
親の生活や医療、介護などにかかるお金は、親が持っているお金で払うのが原則です。親の口座のお金の動きが心配な場合は、親が認知症でなければ、ネットで管理できる金融機関の口座に移すのがおすすめです。そうして、ネット上できょうだいみんなが口座のお金の動きをチェックできるようにしたほうがいいでしょう」。
お金については話しにくい面があるかもしれないが、親のお金がなくなってしまってからでは遅い。きょうだい間で早めに話し合っておくようにしたい。
6.認知症
親が認知症になり、財産に関してこんなに制限が出るとあとから知った。
親が認知症になると、認知能力がないと見なされるので、基本的にすべての契約ができなくなってしまう。
「銀行口座を移すこともできなくなりますが、いちばん問題になるのが、不動産の売買ができなくなることです」。認知症になってから不動産の売買をしたい場合は、法定後見人をつけるしかない。法定後見人は裁判所が選ぶのだが、弁護士や司法書士などの専門職か市民後見人が選任されることが多く、親族が法定後見人になれるケースは少ない。
「不動産の売却が終わり法定後見人がいらなくなっても、親が亡くなるまで解任できないのが問題です。例えば、法定後見人に月3万円、監督人に月1万5000円払っていたら、それをずっと払い続けないといけない。そればかりか、親のお金を家族が自由に使えなくなってしまいます。そうならないためには、認知症になって動かせなくなると困る財産については、事前に家族信託をしておくのがいいでしょう」。
家族信託とは、親が認知症になった場合に、不動産や金融商品の管理、処分などを家族に任せる契約のこと。相続対策が必要な場合は、相続対策をした後で家族信託をするのがポイントだ。
7.施設と実家
親が施設へ。実家の空き家化など、問題が山積。
親が施設に入居して、戻ってくる見込みがなく、その後実家が空き家になる可能性が高い場合は、売却する選択肢もある。
「親が亡くなる前に売って現金にしてしまうと、相続財産が現金評価になり、相続税が高くなってしまうことも。法定相続人になる子どもの中に自分やその配偶者が家を持っていない人がいる場合は、小規模宅地の特例が使えるので、家の相続評価を80%下げられ、相続財産を減らせます。相続税がかかりそうな場合は、実家のまま相続することを検討しましょう」
実家のまま相続したが、結局誰も住まず空き家になってしまうこともよくある。
「子どもたちが実家のそばに住んでいなくて、なかなか手入れもできなくて放置していると、『特定空き家』に認定される可能性があります」。
特定空き家に認定されると、固定資産税の軽減措置がなくなるので、固定資産税が6倍になってしまうこともある。持っているだけで実家の維持費がかさんでしまうので、早めに売却することを考えよう。
「きょうだいがいる場合は、誰が実家の処分についてのリーダーになるかを親が生前に決めておいたほうがスムーズです」
8.墓じまい
親のお墓問題や墓じまい……。後々どうしたらいいのか。
親のお墓について聞くことも大事だが、近年、その後の墓じまいを考えている人も多い。
「墓じまいの相場を聞かれることがありますが、お寺によって違うので、一般的な相場はわかりません。でも、『そんなに払えない』という人もたくさんいます。そこもお寺との交渉次第ですが、基本的にはお墓があるお寺のルールを聞いて従うしかないですね」
樹木葬を取り扱っているお寺や霊園も増えている。
「桜などの樹木が植えてある埋葬許可のある区画に、遺骨を埋葬するものです。さまざまなシステムがありますが、だいたい十三回忌を終えると合同墓に移すようになっていて、永代供養の費用を生前に払っておけば、お墓の管理なども必要ないというのが今の時代に合っていると思います」
最近は、お墓に入るのではなく、海洋散骨を望む人も増えている。
「海洋ゴミにしないために、遺骨を海に溶けるパウダー状にして、それを包む紙も水に溶けるものを使うのが業界のルールなのですが、アルバイトで船だけ出すような業者の中には加工しないまま遺骨をまくケースも。ちゃんとルールを守っている業者に頼まないと供養になりませんね」
『クロワッサン』1111号より
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