くらし

『ドードー鳥と孤独鳥』著者、川端裕人さんインタビュー。「同じ船に乗っていた仲間たちの物語です」

  • 撮影・岩本慶三 文・中條裕子

「同じ船に乗っていた仲間たちの物語です」

川端裕人(かわばた・ひろと)さん●1964年、兵庫県生まれ、千葉県育ち。’95年ノンフィクション『クジラを捕って、考えた』、’98年に『夏のロケット』で小説家としても執筆活動を始める。ノンフィクションに『ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』など。

東京から父親と移住してきたタマキは、転校先で知り合ったケイナと意気投合。生き物が好きだった二人は、図鑑で読んだ「絶滅動物」に熱中して、お互いを今はこの世に存在しないドードー鳥と孤独鳥になぞらえて、日々、自然の中で過ごすようになる。

そんな、誰しもが通ってきたような懐かしい思い出を辿りながら、物語は幕を開ける。タマキとケイナは小学生ならではの、濃密な時間を送るが、それはたった4カ月間のことだった。大人の事情による環境の変化で離れ離れになり、その後、成長してひょんなことから再会を果たすのだが……。

といったストーリーを追ってみると、友情を軸に繰り広げられる青春小説のような印象を抱くかもしれない。それもまた一つの側面ではあるが、物語は光の当て方によりさまざまな輝きを放ち、一筋縄ではいかない展開をみせる。

作者の川端裕人さんは、この小説を書く前に、同じく、17世紀に遠くモーリシャス島で絶滅したドードー鳥をテーマにしたノンフィクションを書いていた。

「この前数えてみたら、自分が書いてきたのは小説が6割、ノンフィクションが4割だった。でも、同テーマで書いているというのは今までないんです。江戸時代に実はドードーが日本に来ていたという事実を知り、それがどこへ行ってしまったのかが気になって。将来それが発見される布石となるよう、まずはノンフィクションとして1冊にまとめて出しました」

今回はそこで踏まえた事実も織り込み、新たな物語を紡ぎ出した。タマキは新聞記者となり、偶然にもカリフォルニアで最先端のゲノム研究である「脱絶滅」に取り組むケイナと取材のため再会する。音信不通だった二人を再び繋ぐのは、やはり絶滅動物だった。

ドードーに思い入れのある人はみなそれぞれ。

「この鳥に思い入れのある人は、みんな“心のドードー”が違うんです。『不思議の国のアリス』を思い浮かべる人、あとは『ドラえもん』、もう少し後にはファイナルファンタジーなどゲームの中にも出てくる。自分の場合は高校生の時に絶滅したドードーにまつわるノンフィクションと小説とを同時期に読んで、ダブルで触れたのが興味を抱くきっかけでした」

そこから巡り巡って今、川端さん自身がまた改めて、ドードーと向き合うこととなった。

「ドードーに私たちが特別な感覚を抱くとしたら、“同じ船に乗っていた”ということだと思うんです。同じ時代に進化をして、同じ地球の中のスペースを共有し合って生きてきた。にもかかわらず、人間と出合い絶滅してしまった」

再会したタマキとケイナ、二人はどんな選択をしたのか。物語でしか描けなかった驚きの光景がそこには広がっている。先端科学のありようや、人間とは?といった根源的な問題、そのすべてが詰め込まれた物語をどう読むかは、あなた次第、なのかもしれない。

絶滅動物を偏愛する、20年ぶりに再会した二人が、ドードー鳥の謎を追う旅へ出た先に待つ、驚愕の事件とは? 国書刊行会 2,970円

『クロワッサン』1104号より

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