「着物と生け花には、多くの共通点があると感じます。」華道「真生流」副家元・山根奈津子さんの着物の時間。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・伏屋陽子(ESPER) 着付け・奥泉智恵 文・西端真矢 撮影協力・真生流本部
着物から小物まで、極端に異なる色は入れず、 同系統の中で色調の違いを楽しんでいます。
「生け花と着物には、共通点が多いことを感じます」
冬の朝の光を柔らかに受け止める、宋代の白磁壺。そこに清楚な木瓜(ぼけ)の枝を挿しながら、山根奈津子さんはそう微笑んだ。昭和2年創流の華道「真生流」副家元として、母である家元・山根由美さんを支えている。
「たとえば格の高い松に野の花を合わせてしまうと、軽過ぎてちぐはぐな印象になります。個性の強い花器には何種類も花を入れず、きりりと一種で生けたほうが、お互いが映える。花器、そして花材同士の釣り合いが非常に大切なのですが、それは着物でも同様ですよね。着物と帯、それぞれの模様や素材の格が釣り合って初めて、真におしゃれな着姿になるように思います」
そんな山根さんは、数メートルもある枝物を用いて大作を生ける日は洋服で取り組むが、花展の会期中や華道団体のパーティーなど、公の場にはほとんど着物で出席するという。
「特に流派の花展では、お弟子さんたちが楽しみにしてくださるので、必ず着物を選びます。初日や最終日には訪問着、中日には小紋や紬を着ることもあり、会期中に変化をつけるようにしています」
毎年行事が続き、しかも代々山根家は数多くの着物を所持する。管理が大変そうだが、
「どんなにスケジュールが立て込んでいても、必ず毎回のコーディネイトを記録して、すぐ参照できるようにしています。名古屋なら名古屋、一つの場所について、最低5年間は同じ着物を着ないよう心がけているんですよ」
そうやってまとう着物を選ぶ時、格の釣り合いに加え、もう一つ、山根さんが重視しているのが色という要素だ。
「常に花に触れているからでしょうか、やはり色には特に敏感になります。たとえば一口に白い花と言っても、透明感のある白から生成りがかった白まで、無限に近い階調がありますよね。自分の好みはどの白なのか、今、目の前の花はどのような白なのか、そんなことを常に意識していますし、染色からも大きな影響を受けていることを感じます。草木染の人間国宝・志村ふくみさんの端切れを集めた『裂の筥(きれのはこ)』という小箱入りの作品集があるのですが、幼い頃、母が折々広げて、『どの色が好き?』『これは茜で染めた赤ね』と手に取らせてくれました。草木が生み出す美しい布の色も私の原点になっています」
だから着物も色を起点に選ぶことが多い。
「今日の訪問着は大学の卒業式のために求めた思い出の一枚なのですが、華やかながら派手ではなく、透明感をたたえたこの地色の朱鷺色(ときいろ)に惹かれました。意匠化したこぶしを大胆に配しながら、花自体は小ぶりでほどよい大きさにとどまっているところも好みの一枚です。帯は鏡裏文様など、吉祥文様を密に織り上げた袋帯。ほとんどの着物と添い、とても重宝しています。全体に、どこか一点が突出するのではなく、調和の取れたコーディネイトを好んでいるのですが、これも花に目指すものと共通していますね」
真生流は2026年に創流百年を迎え、山根さんが家元を継承することが決まっている。プライベートでは2児の母でもあり、多忙を極めるが、それでもふらりと車を走らせることがあるという。
「たとえば家からそう遠くない河口湖辺りに出かけて、しばらく野山を歩いて。自然の中にある花の姿を見るのが好きなんです。これからも感覚を研ぎ澄まして、真摯に花に向き合っていきたいですね」
『クロワッサン』1108号より
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