『「縁切り上等!離婚弁護士 松岡紬の事件ファイル」』著者、新川帆立さんインタビュー。「自分と今、同じ時代を生きている人に読んでほしい」
文・本庄香奈(編集部) 撮影・大内カオリ
「自分と今、同じ時代を生きている人に読んでほしい」
エンタメ小説の新名手がこのたび生み出したのは、「離婚専門弁護士」を主人公とした、縁切りの物語。
「同性婚についてや夫婦別姓が議論される中で、今の仕組みだと拾いきれない関係があると感じていました。そもそも結婚ってなんだろう、と思った時に離婚を描けばわかるのでは、と思ったんです」
舞台は鎌倉にある縁切寺「東衛寺」の門前に構える法律事務所。独身を謳歌する30代の女性弁護士“紬先生”を中心に、探偵として雇われている“出雲くん”、紬の元依頼人であり事務員となった“聡美さん”、そして紬の父や兄など家族……魅力的な人物たちの物語が絡み合いながら、モラハラ夫との離婚、男性が依頼人の離婚、熟年離婚、同性婚の離婚と、様々なケースに取り組んでゆく。
ともするとドロドロとした愛憎劇に思えてしまうが、「事例」として描かれる離婚はとてもリアルなのに、軽やかに読み進められるから不思議だ。
また、それぞれの事例を語る視点は、事務員の聡美さんや紬の父、出雲くんや紬、などと章ごとに変わってゆくのも面白い。
「雑誌で連載していた時は、聡美さんの視点で全章書いていたのですが、それぞれの事例を見るのにふさわしい視点があると思い、改稿しました。
『縁が切れる』とはネガティブワードだと思うのですが、実際は切りたい縁ってありますよね。例えば、熟年離婚。よく問題になるのは住居問題で、離婚によって生活レベルがガクッと下がってしまうことがあるんですね。
でも、貧乏してでも自由になりたい、と決心する尊厳ってあると思うんです。諦めずに離婚する時に、どう動くと有利になるかは弁護士にノウハウがあって、そういう現実的なところを書きたかった。マイナスに受けとめられがちな『縁切り』を違う角度から見ることで、悩みを抱えている方の気持ちが、少しでも軽くなるといいなと思います」
偏見だらけの現実を超えてもっとリアルを描きたい。
一方で、事務所の面々の視点や、同時に描かれる彼ら自身の物語を通すことで、対照的に「切りたくない縁」にも気づかされる。
「エンタメだからスパッと切ってしまうのがいいのかもしれないけれど、縁切りといっても、別れた夫と養育費のやりとりはしたいとか、グラデーションがあると思うんです。切りたくても切れない縁や名前やラベルからははみ出てしまう不定形な縁もある。形に囚われるのではなく、切りたい縁も切りたくない縁も、自分で決めるのがいいと思っています」
結婚が知りたくて書き始めた離婚だが、答えは出たのだろうか。
「全然わからなかったですね(笑)。でも、人とのつながりは大事だなと思いました。それは、結婚じゃなくてもよくて、友だちでも仕事仲間でもいい。離婚の先にも幸せがあると思いましたし、結婚をしない紬も幸せなんです。ステレオタイプの“現実”に打ち勝ち、今を生きる人にとって、偏見のない現実を描いていけたらと思います」
『クロワッサン』1097号より
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