くらし

『出セイカツ記 衣食住という不安からの逃避行』著者、ワクサカソウヘイさんインタビュー。「〝寝食を潰す不安〟って、なくなるんですよ」

  • 撮影・中村ナリコ 文・遠藤 薫(編集部)

「〝寝食を潰す不安〟って、なくなるんですよ」

ワクサカソウヘイさん●1983年、東京都生まれ。コラムやルポの執筆、また多くの舞台やコントにも構成作家として携わる。主な著書は『今日もひとり、ディズニーランドで』(幻冬舎文庫)、『夜の墓場で反省会』(東京ニュース通信社)、『男だけど、』(幻冬舎)など。

人生100年時代。医学の進歩はありがたいが、その響きに手放しで喜べる人はどれだけ多いのか。年金をもらい始めるタイミングを計ったり、想定される残りの年数に様々な数字を掛けては割ったり。

ワクサカソウヘイさんは言う。

「人生100年とか老後2000万必要とか、僕もキツイな、困ったなと思ったんですけど、それってすごく悲しいことだなと。生きる環境自体がつらい世の中になってしまっているってことですよね。生活って本来楽しいことでなければいけないし、創造(クリエイト)していけるものであるはずなのに」

そんなに長くは生きたくないと思う自分がいることが悲しい。ではその根源の、“生きることはしんどいことだ”と煽ってくる、大いなるものに喧嘩を売ってやろう。そこで生まれたのが本書だ。

〈衣食住にまつわる固定観念をあきらめることこそ、「将来に対する漠然とした不安」に対抗できる唯一の手段なのではないか〉

「これなら生きていける」と思えたメソッドは?

以下はワクサカさんが試みた冒険の一部だ。

“食べていけない”という不安を払拭するため、磯で自分で突いた魚だけを食べて暮らす。“お金がなくなったら”という呪いを祓うため、川で拾った小石を売る。“着るべき服”の重圧から逃れるため、アニメキャラのように大きなイニシャルのついた服を着て、ついには手持ちの服をラスト1着になるまで捨てていく。

全てを終えて得た知見はどのようなものだろうか。

「格段に生きやすくなりました。『これさえあれば』を見つけたというより、全部試せたことがよかった。磯に出たり木登りをしたり、ともかく家から出て、自分のいる階層を外れてみる。多くの場所に少しずつ分散して依存することで、全ての人の悩みである『寝食潰したらどうしよう』という不安が薄れます。意外と何やっても生きていけるし、工夫することは楽しい。1年間寝て暮らす、というのも試しましたが、そんなことをしたら社会復帰するのが難しそうって思うでしょう? それがそうでもなくて、世の中って意外とおおらかなんですよ」

どこでも生きていけると思える実感を得たこと。それを「生活感情のバックアップ」と呼び、明日死んでもよし、100歳まで生きてもよしと思えることを「感覚資産」と表現する。

それでも悩むことがあった場合の解決法も、本書は用意している。それは「様子を見る」ことだ。

「大きな組織で仕事をするような場合、判断をするのは大事なこと。でも個人の生活は個人のもの。だから、決めなくていい。判断すると間違えるかもしれないから、1か2を選ぶのではなく様子を見る。様子を見ることにした、と決めればいいんです」

私たちは今日も明日も、様子を見ながら生きていこう。そうすればきっと、生き抜いていける。

石を売る、穴を掘る、寝続ける。日常にささやかに抗い、生きづらさの呪縛を解く痛快冒険エッセイ。 河出書房新社 1,705円

『クロワッサン』1086号より

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