『キリンのひづめ、ヒトの指 比べてわかる生き物の進化』著者、郡司芽久さんインタビュー。「解剖を通してその生き物の魅力に気づくことも」
撮影・青木和義 文・中條裕子
「解剖を通してその生き物の魅力に気づくことも」
子どもの頃からキリンが大好き。
1歳半くらいの記念写真はぬいぐるみと一緒、動物園でもキリンの前からずっと動かなかったという逸話を持つ、郡司芽久さん。現在は、解剖学を専門に、キリンをはじめ、動物たちの体の構造や動きを研究する日々を送っている。
「元々、似ているものがいない動物が好き。キリンはユニークさでいうと1位に近いかな、と」
そんなキリンとともに、本書ではさまざまな動物を肺、手足、首、皮膚、心臓、腎臓……といった器官ごとに、その基本的な構造や働き、進化について紹介。
そこには、思いもよらなかった発見や驚きが詰まっていて、知っていたつもりの生き物が新しい姿で立ち現れてくる。
たとえば、角。サイ、シカ、ウシ、キリンなど、角を生やした動物はそう珍しくはないけれど。
「角の成り立ちは本当に多様です。皮膚や毛が硬くなったり、頭蓋骨が伸びたり。進化の過程で道が一本しかなかったわけではなく、いろんな選択肢があって。どれも間違いではなく、どれでも正解。それぞれの動物が長い進化の過程を経て、今では違う道を歩んできた角ができているという感じ」
一見同じように見えて実は別の進化の過程を経てきた、というものは実際に多いのだという。動物たちの角は生えている場所だけでなく、進化も働きも全く異なるものだったというのは驚きだ。
「『一つのものだけ見ていても、そのものについて全部はわからない』ということが、研究を通じて知ったこと。見比べて初めて、動物の体の形の意味や進化についてわかってくる。なので、今回はいろんな動物を登場させています」
いろんな動物を見ていくことで、人間をより理解することに。
この生き物には、本当は体の内外にそんな秘密があったのか!? という驚きを覚えると「では、私たちヒトは……」というところに自然と返っていくことも、読んでいて気づくことの一つ。
「他の動物と比較することでキリンという生き物がよくわかるのと同じで、いろんな動物を見ていくと初めて『人間てこうなんだな』と、より理解できるんです」
そんな郡司さんの言葉を聞きながら「手のひらを返すヒト、返せないキリン」という章の一節が思わず浮かんだ。
キリンの足の曲がり具合を見て、膝が逆に曲がっていてヘンだな、なんて感じたことありませんか? けれど、足の関節の位置を比べてみると、実は“くの字”の部分は人間の踵にあたり、単に位置が高いだけなのだという。
そうした解説を読みながら、キリンや他の動物たちの体の不思議に思いを馳せていると、章の最後にはこんな一文が。
「多種多様な生物たちを観察していると、そもそもヒトというきわめて特殊な動物が思い描く『普通』なんて存在しないのかもしれないな、という気すらしてくる」。
このひと言がずしっと心に響いてくるのだ。少々形が異なっていても、それがヘンだなんて誰が言えるんだろう、と。
『クロワッサン』1086号より
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