『ひとりで生きると決めたんだ』著者、ふかわりょうさんインタビュー。「ひとりを謳歌する本ではないんです」
撮影・山本康典
「ひとりを謳歌する本ではないんです」
「表紙の羊をよく見るとですね、耳のところに黄色い管理タグが付いているんですよ。ひとりで生きると決めたんだと言ったところで、やはり群れで生きるのが宿命というか、野生の羊ではないので一頭では生きていけない。そういう意味も裏にはこめられているんです」
アイスランドで出合う羊たちを愛し、幾度とない旅行で撮りためた写真の中から選んだ一枚。
「自信に満ち溢れているわけではなく、どこかで自分に言い聞かせているような、どちらかというと強さというより弱さというか。この羊のどこか悲しげな表情と重ねても、おひとりさまを謳歌している本ではないということです」
前作の『世の中と足並みがそろわない』から約2年。2カ月間で22編のエッセイを書き下ろした。いわく自分が関心を持つことはほとんどの人が気にしないことであり、まるで重箱の隅を突(つつ)くようなことだとあっさりと認める。
「でも僕にとっては目の前に立ちはだかる大きな壁なんです。重箱の隅でもなんでもないんですよ。みんなどうしてこの壁をすり抜けてるの?みたいなことで、僕にとっては隅っこじゃなくて。その隔たりのようなものがどんどん心の底に溜まっていくわけです」
「不揃いの美学」「しっくりこないまま」「敏感中年」などのタイトルに、繊細な世界が見てとれる。「人生は弱火で」では自身による家電の使い方について語っているが、IHコンロの火力は10段階の4まで、床暖房は2まで。あらゆる家電を強火以外で使用している。無理をさせたくないのだという。
一生独身でいると宣言しているのでもなくて。
「無自覚に蓄積しているもの、胸の奥に淀みのように眠っているものがあり、それが採掘されれば言語化されてある種、鉱泉を見つけたような感じといいますか。うまく掘り当てることができれば、いい湯加減の源泉かけ流し温泉のような原稿ができるんです。自分でもどういうものが出てくるのかわからないんですが、掘ったのに温泉地にならなかったな、ということはほぼないまま書けました」
現在48歳。独身のイメージが強いが、ひとりで生きるというフレーズには“結婚しない”というニュアンスも含まれているのだろうか。
「この本の中にも書いたんですが、借家暮らしも数十年経つのでいよいよマイホームみたいなことを想像した時に、DJブースや車を置く場所は想像できても家族はイメージに入ってないんですよ。
でもそれは心がまえの話なので、一生誰とも連れ添わないことを宣言しているわけでは決してなくて。むしろ自分のそういう心境に気付けたというか、気付いたからこそどこかで強がっているのかもしれないです。
こんなことを言っている人ほど、ちょっと誰かに優しくされるとコロッと変わりますからね。むしろひとりでいることがめちゃめちゃ怖いから、言い聞かせているとも言えます。僕はきっとその手の類いですから」
『クロワッサン』1085号より