くらし

『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』著者、町田 康さんインタビュー。「読まない日も書かない日も、一日もない」

  • 撮影・三東サイ 文・広瀬桂子(編集部)

「読まない日も書かない日も、一日もない」

町田 康(まちだ・こう)さん●1962年、大阪府生まれ。’81年、パンクロッカーとして歌手デビュー。’92年に詩集『供花』発表。’96年「くっすん大黒」で作家デビュー、同作でBunkamu raドゥマゴ文学賞を受賞。2000年「きれぎれ」で芥川賞受賞。ほか受賞歴多数。

カバーには、「はじめての自分語り。」とある。強烈な個性で読んだ者を虜にする作品を、次々発表する町田康さんは、他の作家とは一線を画す存在だ。

「なんでこんな人間になってしまったのか、と考えるにつけ、本を読みすぎたからかな、と」

若い頃、引っ越しの手伝いに来た友人たちが「本が多すぎる。普通、こんなに本はない」と怒りだし、「こんなに本ばっかり読んでいるから、あいつはバカなんだよ」と言われたエピソードが登場する。

「子どもの頃から、500円もらっては本を買いに行っていました。『物語日本史』という歴史ものにはまり、その後、北杜夫、井上ひさし、遠藤周作など当時流行っていた作家に出合い、筒井康隆は読みあさりました。その後は古典にどっぷりですね」

自分が書き手になるとはまったく思っていなかったが、

「パンクロッカーだった頃、音楽雑誌に原稿を頼まれたんです。でも、日記のようなものは恥ずかしくて書けない。なんとかおもしろくしようとして、自分なりに工夫しました。随筆と小説の中間というか。今思えば練習になりました」

構えたり、かっこつけたりしているうちは、いい文章は書けない。

「人間の考えていることなんて、だいたい変なんですよ。それを、こんなこと書いたらおかしいやつと思われるんじゃないかとか、自分で勝手に忖度する。プロの作家は、自意識を完全に失った人ですね。自分は、ただただ夢中で書いている。そうすると、自分が本当に考えている変なことにたどり着くことができるんです」

形式を軽んじていいのが小説のいいところだ、と言う。

「今、文学の賞をとる人で、文章に凝る人は少ない気がします。透明でニュートラルな感じが多い」

いい文章を書くためには、とにかく毎日、読む、書く。

この本は、実は、「自分も書きたい人」にとって、ためになることがたくさん盛り込まれている。

「SNSの影響もあって、昔より書く機会は多いし、いい文章を書きたいと思っている人も多い。でも、みんな本を読まないんですよ。それはもう、はっきり“本を読む以外、方法はない”と言い切れますね」

そのうえで、オートマチックな言語に要注意、と言う。

「“袋のネズミ”とか、“泣ける映画”とか、そう書いた時点で、自分の思考が縛られてしまう。本当に実感を持って使っているのか、その言葉を疑うことが大事です」

自身は毎日、朝から仕事場の机に向かう。月単位で予定を立て、書かない日は一日もない。

「こつこつ進めるのが好き。書くか読むかしか、していないですね。自分の中に、これは言いたいというパッションがあるし、書くことが快感です」

カバーの写真は30歳の頃。作家になるとは思わなかった作家の「成功する墓穴の掘り方」。この視点から読むのも、また一興。

読書歴をベースに、創作の手法、いい文章の書き方まで多岐にわたって網羅した、本好きにはたまらない一冊。 NHK出版 968円

『クロワッサン』1082号より

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