【粗忽の釘】肩の力を抜いて演じると、粗忽者のそそっかしさが生々しく。│ 柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
【演目】粗忽の釘
あらすじ
あるそそっかしい男が引っ越しをすることに。
荷造りのときからおかみさんを巻き込んでてんやわんやの挙げ句、風呂敷包みを背負って出かけたまま行方不明に。
夕方になってようやく引っ越し先にたどり着き、一服しようとすると、女房から「箒をかけるための釘を柱に打って」と頼まれる。
煙草を吸えず腹立ち紛れに八寸もある釘を壁に打ち込んでしまう。長屋の壁は薄いから隣家に詫びてくるよう言われ、出かけたものの、持ち前の粗忽で騒ぎは大きくなるばかり…。
あわて者、そそっかしい人のことを「粗忽」と呼びまして、この粗忽者が起こすさまざまな騒動がいくつもの落語になっております。慌てて何かをやったがために失敗した、どなたでもそんな経験があるはず。粗忽の噺は、誰しも覚えのあるそそっかしいエピソードで共感してもらうこともありますが、だいたいは常人の想像の上をゆく突飛なことをしでかすのが落語界の粗忽者です。
私自身は以前、粗忽の噺を演じるのが苦手でした。あわて者がいろいろ間違えるのを「決められたとおり、ちゃんと間違えてます」みたいにお客さまに感じさせてしまったようです。それを払拭できたのは、ある師匠がこの噺のオチを間違えてしまった場面に遭遇したから。
「そそっかしいヤツなんだから、どう言い間違えたっていい」と、まるで意に介していない様子。なるほどと、自分でも肩の力を抜いて演じてみると、お客さまの反応も変わり、今では良き落語日和を味わいながら演じられる噺になっています。
『クロワッサン』1079号より
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