使いながら調整を重ねて辿り着いた、料理家・飛田和緒さんの無駄な隙間のない動きやすい台所。
撮影・柳原久子 文・嶌 陽子
少しでもスペースがあれば 収納を取り付けています。
「一日のうち、台所で過ごす時間は本当に長いです。忙しい時は昼食をとるのもここ。いっそのこと寝袋を持ち込んで寝ようかと思うくらい」
そう笑って話す飛田和緒さん。あまたのレシピを生み出し、また日々家族の食事を作ってきた台所は「動きやすさを重視」した結果、意外なほどコンパクトだ。だが、空間を最大限活用したたっぷりの収納のおかげで、仕事柄たくさんある道具もきれいに収まり、すっきりと片づいている。
「少しでもスペースがあればなるべく収納にしてくださいと、リフォームの際にお願いしました」
台所をフルリフォームしたのは8年ほど前。それまで賃貸暮らしだったため、「自分の台所」を作るのは初めてだった。が、いざ具体的な希望を聞かれると、あまり思いつかなかったという。
「こだわったのはカウンターの高さと奥行き、大きいシンク、収納を多くすることくらい。カウンターや棚の素材、タイルの種類など、細かいところは全部お任せしました。それまで引っ越すたびに自分が台所に合わせてきたので『絶対にこうでなければ』というのはなかったんです。どんな台所でも料理できるし、ちょっとした工夫で前より使いやすくなるほうがうれしくて」
数少ないこだわりは、これまで立ってきたさまざまな台所での経験から生まれたもの。カウンターの高さを89cmと一般より高めにしたのもその一つだ。
「たまたま前の家のキッチンカウンターが高かったんです。実際に使ううちに、作業の際にかがまなくてすむのでいいなと思うようになりました」
フルリフォーム後も、実際に使い続ける中で違和感を感じた部分はプロに相談して調整してきた。特に手を入れたのが、最初からこだわった収納だ。
「リフォーム時に勧められて食洗機を設置したのですが、結局ほとんど使っておらず、物入れのようになってしまっていて。スペースがもったいないと思い、外して引き出し収納にしてもらいました」
ほかにも深さのあるシンク下収納のスペースをもっと有効に使おうと中引き出しをつけて2段にしたり、奥行きがありすぎて使いにくかった戸棚を引き出しに変えたり。そうやって辿り着いたのは、空間をあますところなく活用した、使いやすく動きやすい台所だ。
「今は気になる部分はないです。今後変えるとするなら吊り戸棚。将来、高い位置にしまっているものを出し入れしづらくなった時、手元まで引き降ろせる可動式の棚にしようと考え中です」
実際に使ってみなければ分からないことはたくさんある。そう考える飛田さんは、今の家に引っ越してしばらく暮らしてから台所をリフォームし、その後も使いながら調整していった。焦らずに、考えながら手を入れていったことが今の自分らしい、心地よい台所へとつながっているのかもしれない。