シンプルに豊かに暮らす、生活評論家・沖幸子さんの秘訣。
すっきりと気持ちよく暮らす女性に、毎日を楽しむコツを聞いてみた。
撮影・半田広徳 文・寺田和代
“私が住まいの主人公。 必要なものを見極めて心地よく楽に暮らす。”
年齢とともにますますシンプルで心地よい暮らしを、と提唱する沖幸子さん。その生活術は驚くほど明快だ。
「当たり前ですが、住まいの主人公は自分ということ。今の自分が気持ちよく過ごせるのはどんな空間かを知ることが、家事の仕方や暮らし方を工夫していく際の起点になります」
家族と住まいを共有していても、主人公は自分、という視点をブレさせずに暮らしや家事に向き合う。
「家族が非協力的だとか趣味が違うなど、いろいろあるでしょう。でも、そこでストレスを溜めて立ち止まってしまうと、いつまでたっても心地よさを実感できません。自分が機嫌よく暮らせていれば家族にもそれが伝わり、皆も自然と協力的になってくれるものです」
心地よく過ごすには、場がそこそこきれいに保たれていることが肝心。
「そこそこ、ほどほどでいい。完璧にしようと思わないで。家事に限らず物事には諦めも肝心。結局それが無理なく心地よい空間を維持するコツです」
もう一つ心に留めるべきは、家事が苦手なら苦手のままでいいということ。
「じつは私も掃除嫌い。でも心地よく暮らしたい。どうする? そこが長年暮らしたドイツで学んだ大切な点ですが、家事に好き嫌いは不問。時間と手間をかけず、心も体もあまり使わずにできることを習慣にしていきましょう」
まずは、家ですることの一つひとつの間に区切りをつけてみる。
「たとえば掃除が、料理が、食事が、書きものが、終わったら使ったものをその都度すべて片づける。終わり次第、片っ端から片づける習慣を身につけると場も頭も心もスッキリ保てます」
その時に併用したいのが、使った所をその都度ちょこちょこ掃除すること。
「トイレや洗面所の水回り、キッチンのレンジ回り、テーブルの上など、使った所は間髪を容れずに拭いたり掃いたりする。最初は面倒に感じるかもしれませんが、その瞬間に拭き取る作業はほんの数十秒。“あとで”と放置するから汚れが重なり、手に負えなくなってしまう。使ったら即、を習慣にすると、年齢とともに掃除が負担になっても、常にきれいな状態が保てます」
沖さん自身もこの掃除法で全体の掃除を週1日に減らせたそう。
家事労働の負担を減らす上では“ちょっと先の分まで”を意識してみよう。
「料理に例えると、ほうれん草を買ったら冷蔵庫にしまう前に全部洗って茹でてしまう。小分けして冷凍すれば2〜3回分の調理に応用できます。未来の献立決めが楽だし、時短にも。そんなふうに、家事は少し先の自分を助けてくれるものでもある。掃除機を使ったら次に出す手間を考えて置き場を決めたり、掃除機のゴミパックを確認して取り替えておけば、次も気持ちよく手に取れるでしょう。そのひと手間が快適な住まいの維持を助けてくれます」
ちょっと気を許すとすぐに増えてしまうものとの付き合い方も悩みのタネ。
「基本的なことですが、それぞれのものに定位置、つまり住所を決め、使ったら必ず元に戻すことです。住所が決まっていれば使う時に取り出しやすく、しまいやすい。全部にでなくて大丈夫。よく使うものだけ、全体の8割でいいから住所を決めておく。年を重ねると、よく使うものが使いやすい場所や位置にあることが、安心で安全な暮らしにもつながります」
ものを増やさないためには、一つで複数の用途を兼ねるものを選ぶ。
「インテリアと実用性を兼ねたものを。とくに毎日使うものは出しっぱなしでも邪魔にならないタイプを選んで。わが家の場合ならシュロのほうきやテーブル用の小さなほうき、玄関に置いた長靴の形をした陶器の靴ベラ入れ(すべて写真参照)など。小さなものでは、おろし金兼スライサーを100円ショップで見つけて重宝しています。用途が一つのものは案外、短命。初めから選ばないほうがいいかもしれません」
自分の暮らしに合わないとわかったものはすぐに手放す。
「私にも失敗はあります。そんな時は必要な人に迷わず譲ります。時には失敗しつつ、8割うまくいけばいいくらいの気持ちで心地よい日々を重ねていく。その余裕も、自分が暮らしの主人公になる上で必要なことだと思います」
\年齢を重ねてやめたこと、変えたこと。/
□ 作業が終わったところはその都度片づけ、全体掃除の回数を減らす。
□ 次の作業がしやすくなるように考えて動く。
□ 何役にも使える道具を選ぶ。(一つの用途のみの道具を買わない)
□ 自分に合わないものはすぐに手放す。
『クロワッサン』1062号より