子どものころ、年に数回、母が「おじいちゃんと歌舞伎に行くから」と、出かける日がありました。祖父の旧友に歌舞伎俳優の方がいて、母や叔母を連れて舞台を観に行っていたようです。
終わったら銀座で美味しいものを食べるのよ。ちょっといい服を着てきっちり化粧をして、うれしそうに出ていく母を見送り、自分も大人になったらお洒落をして歌舞伎に行くんだ!と心に決めたものです。
しばらくして、その祖父の一行に加えてもらえました。初めての歌舞伎座はお祭りのような賑わい、甘いような粉っぽいような匂い。集う大人たちの誰もがうれしそうでした。舞台の上の祖父の旧友はお姫様の姿で、その溢れるような愛らしさに驚いたものです。
そしてさらに時が経ち、社会人になった私は、自分のお給料で祖父と母を歌舞伎に招待しました。祖父はずいぶん小さくなったけれど、友人の方は変わらず赤い着物で、優美に踊っておられました。時代も時間も日常も超える楽しみに会えるところ、それが歌舞伎座という空間だと思います。
この号の表紙と巻頭に登場してくださった二代目松本白鸚さんは、御年79歳。3歳の初舞台からずっと第一線で、歌舞伎のみならず、ミュージカルにも取り組むなど日本の演劇界を牽引してこられました。この秋には初役(『時平の七笑』)に挑まれるとのこと。その尽きないエネルギーの源泉などを伺った、夫人の紀子さんとの和やかな対談は、ぜひ本誌をお読みください。またこの号には、今注目したいグッドルッキングな若手の俳優さんも多数登場。尾上右近さん、中村米吉さん、中村隼人さん、中村莟玉さん…。「才能ある若者を長く愛でる楽しみ」も乙なものです。ぜひこちらもお見逃しなく。