超多忙のCMプランナー・福里真一さんの「忙しい」から逃れる7つの知恵。
イラストレーション・村上テツヤ 文・嶌 陽子
(1)仕事は2時間区切りをルーティンにする。
テレビCMの企画をする際、福里さんが必ず決めているのは、時間を2時間ずつに区切ることだ。
「2時間経ったら一度そこで終わり。『2時間もあるからゆっくり考えられる』という気にもなるし、『あともう少しで2時間が終わってしまうから頑張らなきゃ』と思わせる効果もある」
ゴールデンタイムは午前10時〜12時。午後にアポがない時はさらに2時間をもう1〜2タームやることもあるが、合計3タームもやるとかなりクタクタに。
「疲れると仕事にならないので、深夜の仕事はありえません」
(2)忙しくても睡眠時間をしっかり確保する。
「私の仕事にとって、一番の敵は眠気なんです。企画って頭の中だけで行うことなので、眠くなってしまうと最も効率が悪くなり、時間が全て無駄になる。だからどんなに忙しくても、睡眠を充分に取ることはすごく大事にしています」
毎日、睡眠時間は7時間を確保。以前は8時間だったそうだ。
「数年前に新聞で8時間より7時間寝ている人のほうが長寿だという記事を読んだので、迷いつつも最近は7時間にしています」
多い時には企画しなければならない案件を同時に15件ほど抱えていることもあるが、
「それでも徹夜や睡眠時間を削ることは絶対にしないです。それに、たくさん仕事を抱えていたほうが、かえってはかどる時もあるんです。ある企画で考えていたことが、別の企画で使えると気づいたり。あと、気が乗らない案件が1つあると、それから逃げるように他の案件を頑張るので、結果的にすごくはかどることがありますね(笑)」
(3)メールはとにかくすぐ返す。
企画以外に打ち合わせやCM撮影の立ち会いなど、さまざまな仕事を抱える福里さん。一日に受信するメールも相当な数だ。それに関しては「とにかく来たらすぐに返信する」がポリシー。
「昔、同じ広告業界の有名なクリエイターの本に『”了解です”の一言だけでもいいから3分以内に返すべき』と書いてあって、私も意識するようになりました。
とにかくたくさん来るので、ちょっとでも溜めてしまうと忘れちゃうんですよね。だからどんどん返信して、返信したメールはすぐに消す。そうやって受信トレイにメールが溜まりすぎないようにしています。
おかげでメールの多さにストレスを感じることもあまりないですね」
同様に、一度考えた企画も自分だけで抱え込まず、すぐに関係者に送るようにしている。
「広告は多くの人に届けるもの。だから、企画も一度思いついたら早めに共有して、いろいろな意見を聞きながら広げていったほうがいいと思っています」
(4)気持ちが殺伐としたら日常に目を向ける。
デジタル化が進んで便利になった一方、情報が溢れすぎているせいか、なんだかイライラしている人が多くなっている気がする昨今。福里さんはそんな世の中をどう見ているのだろうか。
「特に最近は、コロナのニュースが多いこともあり、殺伐とした気持ちになっている人も多いのかもしれませんね。私はせっかく広告を作る仕事をしているので、見る人がほっとするものを提供したいという気持ちを持っています。どこか切羽詰まった気持ちになっている時に、ふと見たCMに日常を感じて救われた気持ちになる。そんな作品を作りたいです」
市井の人々の日常の1コマを切り取った「宇宙人ジョーンズ」シリーズをはじめ、確かに福里さんの手がけるCMは、見ていてほっとしたり、心が温かくなったりするものが多い。多すぎる情報で頭がパンクしそうになったら、日常や人の営みの些細なことに改めて目を向けてみると、肩の力が抜けるかもしれない。
(5)土日の仕事が自分を楽にしてくれる。
日々、たくさんの仕事をこなしている福里さん。どんなふうにオフを過ごしているのかを聞いてみると、「そもそもオフって必要なのかなって思ってるんです」という驚きの答えが!
「たとえば土日は休まなきゃいけないっていう風潮は強いですよね。でも私の場合、土日も午前10〜12時は企画の時間。そのほうがずっと楽なんです。
土日に休みたいあまり、仕事を平日に詰め込もうとすると、すごく大変。気持ちにも余裕がなくなるけれど、『土日があるから大丈夫』と思えばイライラせずにすむ。物理的にも精神的にも、かなり余裕ができるんですよ」
ただし、土日の仕事は午前中のみ。午後は美術館に行くことも多い。家で最近夢中になっているのは昔の大河ドラマ。丸一日休まずとも、好きなことは上手に組み込んでいる。
「土日と思わず、”妙に予定が少ない平日”と思えばいい。午前中の仕事だけで、あとはもう何もない! とうれしくすらなります」
(6)こだわりがありすぎると、人は忙しくなる。
夫婦ふたり暮らしの福里さん。家事などで忙しさを感じることはあるのだろうか。
「何に関してもこだわりというものがないんですよ。例えば食事も、凝った料理を作って食べたいという人もいると思いますが、私にはそれが全くない。今のコンビニにはとてもおいしい冷凍食品があるので、それで大満足なんです」
掃除や片づけも全く好きではなく、掃除は2週間に一度、プロに来てもらっている。
「あそこにあったものをここに戻して”片づける”とするわけですが、地球全体から見ると、ものがほんの少し移動しただけ。こんな虚しいことにあまり時間をかけたくないなと(笑)」
こだわるのが好きで、それに時間をかけるのが楽しい人は、もちろんそれでいいと福里さん。
「ただ、私の場合『こうでなければいけない』と思うことがあまりない。だから思いどおりにならずにイライラすることは滅多にないかもしれませんね」
(7)人間関係では、 無理して仲間に入らない。
福里さんの作るCMには人々の心の機微を描いたものも多い。大勢の仲間との交流を通じてアイデアを育てているのだろうか。
「子どもの頃から常に仲間外れ。人の輪に入れない性格なんです。自分では意識していないですが、結果的には外からその人たちを見ているという観察者目線が育ったのかもしれないですね」
亡くなった樹木希林さんと親交の深かった福里さん。印象的なエピソードがある。
「私はCM撮影に立ち会う時も隅っこの目立たない場所にいて、タレントさんにも大抵気づかれないんです。
そんなふうにして富士フイルムのCMの撮影現場にいた私のことを、ある時、樹木さんがスタッフに『あの人は誰なの?』と聞いたそうなんです。
なぜ興味を持ってくれたのか、後で聞いたら『あなたは隅っこのほうでずっと見ていた。見るってことが一番大事なのよ』と」
忙しいのに無理して人の輪に入ろうとしなくても、自分次第で得るものはたくさんあるのだ。
『クロワッサン』1043号より
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