【歌人・木下龍也の短歌組手】夫婦の愛が可能にすること。
第41回全国短歌大会大会賞を受賞して以降、精力的に活動を続ける歌人・木下龍也さんが読者の短歌にコメントをする連載『短歌組手』。毎週金曜日夜に更新をしていきます。短歌の応募もぜひお願いします。
〈読者の短歌〉
真夜中に「自戒を込めて」と書く人の他戒のみしか込められてなさ
(カラスノ/女性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
自戒を込めて掲載いたします。
〈読者の短歌〉
買ったものだけ捨てられるコンビニで捨てたいためのチューハイ開ける
(神戸麻衣/女性/テーマ「コンビニ」)
〈木下さんのコメント〉
味わうためでも酔うためでもなく捨てるため。それは「チューハイ」にとって最も不本意な終わりかただ。でも、自分の支配下にある何かを最もひどいやりかたで犠牲にしなければ、自分を犠牲にしてしまいそうになるくらいつらい日が、たぶんあるのだろう。「捨てたいためのチューハイ」は新鮮な響きだった。
〈読者の短歌〉
来世でもきみと暮らすよきみがもし人間ならば僕が犬だよ
(犬口マズル/テーマ「犬」)
〈木下さんのコメント〉
人と人、あるいは犬と犬に生まれ変わって「きみ」と深くわかり合いたいと願ってしまいそうになる。けれど犬と人は違う種族だからこそ、言葉が通じないからこそ、わからない部分も許せてちょうどいい距離感で長く共存できているのかもしれない。そんなことを思わせてくれる1首でした。散歩している犬とおじさんも前世では逆だったのかなと思うとマスクの下で口角が上がります。
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