神童がなぜ凡才に?など、3つの問いから脳の仕組みを理解する。
イラストレーション・鈴木衣津子 文・嶌 陽子
工夫次第で物忘れは防げるし、さらには日常の習慣でワーキングメモリは鍛えられる。
キーワードは”マルチタスク”。
3つくらいの作業を同時にこなして脳に適度な負荷をかけるのが、脳の活性化に効果的なのだ。
具体的な実践例を見る前に、まずは以下の3つの問いを解き明かしながら、私たちの脳の仕組みについて理解を深めよう。
クレジットカードは覚えられないのに、携帯の番号はなぜ記憶できるのか?
「ワーキングメモリ=脳のメモ帳の枚数は3〜4枚が限度。ということは、一度に扱える情報のまとまり=“チャンク”の数もせいぜい3つほどです。ですから何かを記憶したい場合、3チャンクに分けるのが有効です」(脳科学者の篠原菊紀さん)
数字の数が多いクレジットカードの番号に比べ、携帯の番号はまさしく3つに区切られていて、しかもひとつのチャンクの数字は最大4つ。だから繰り返し言ったりすることで、比較的容易に覚えられるのだ。
【3つの〝チャンク化〝で覚えやすくなる。】
090-××××-○○○○
繰り返し言うこと自体も記憶を定着させるための有効な手段。これはワーキングメモリを構成する要素のひとつである「音韻ループ」、つまり耳に入る音によって記憶するという方法だ。実はワーキングメモリの構成要素は全部で3つある。2つめはイラストや図など、視覚的、空間的なイメージで記憶する
「視空間スケッチパッド」。そして3つめは音と画像を組み合わせ、映像のようにして記憶する「エピソードバッファ」だ。この3つのうちのどれか、あるいは2つ以上を組み合わせて使うと、記憶しやすくなる。
「たとえばメガネの置き場所を覚えておきたいなら、置いた場所からメガネを取ってかけている映像をあらかじめ思い浮かべておくといい。2階に本を取りに上がる場合でも、本を取っている場面を映像で頭に浮かべておく。さらに『本、本』と口にして音で記憶すると忘れにくいでしょう」
記憶を定着させるためにもう一つ大切なのはワーキングメモリを“使う”こと。たとえば見聞きしたことをほかの人に話す、頭の中であれこれ考える、それについて考えたことを文章に書いてみるといい。
「ワーキングメモリを深く使えば使うほど、脳はそれが必要なことだと判断し、覚えようとします」
ワーキングメモリをうまく利用すれば、より忘れにくくなるのだ。
複数の仕事をバリバリ同時にこなすカリスマ主婦は、マルチタスクの達人か?
掃除機をかけながら洗濯機を回し、さらにはメールの返信も。これらを鼻歌まじりでこなしているのは驚異的なワーキングメモリのおかげ?
「周りからマルチタスクに見えることと、本人にとってマルチタスクかどうかは全く関係がない。そもそもワーキングメモリは、その都度情報を処理して問題を解決する。鼻歌まじりにこなせるということは、作業がルーティン化していて、考えなくても勝手に身体が動く。つまりほとんどワーキングメモリを使っていないのです」
脳を鍛えたいなら、2つ同時にしている家事を3つにするなど、自分にとってほんの少し大変な状況に身を置くことが必要だ。ただし、やり過ぎると脳に負担をかけるのでご注意を。
「よく料理を焦がすという人は、タスクが脳のメモ帳の3〜4枚よりも多すぎて脳の容量オーバーを起こしているのかも。作業を見直すことが必要です」
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