タサン志麻さんの、何でも手作りするフランス流の住まい。
撮影・青木和義 文・黒澤 彩
なかなか予約の取れない人気家政婦として忙しい日々を送るタサン志麻さん。4年ほど前、夫とともに東京の下町に見つけた古民家へ引っ越してきた。
「それまでは都心のマンションに住んでいましたが、結婚を機に、自分たちで好きなように改装できる一軒家を探しました」(タサンさん)
そのまま住むにはあまりにも古い、築60年以上の家。が、タサンさんはすぐに気に入り、難色を示す夫を説得して、ひとまず暮らし始めてしまう。
「初めは板の間に絨毯を敷いただけで1週間くらい過ごしました。もともと、住みながら自分たちでリフォームをしていくつもりだったんです」
まずは古い畳を剥がし、フローリングを張ることから。フランス人である夫・ロマンさんの家族や友人は床に座る習慣がないので、大きめのダイニングテーブルと椅子を置くためにも、取り急ぎ床の張り替えから始めたのだ。人手のいるときは、友人たちも手伝いに来てくれた。
「フランスでは、できることは自分たちでするのが当たり前。プロのような仕上がりではなくても、そのほうが楽しいっていう感覚なんですよね。私もちょっとくらいペンキがはみ出したりしていても気にならないし、何よりも、みんなで手を動かしたことが思い出になります」
子どもが生まれ、家政婦の仕事が軌道に乗り始めたこともあり、リビングとダイニング以外の改装はゆっくりペースで。キッチンを新品の業務用に入れ替えたのは、つい昨年だという。プロの料理人だけに、意外な気も?
「それが、キッチンにはそんなにこだわりがないんです。業務用にしたのも、サイズが豊富でぴったり合うものがあったから。道具も少ないほうなので、キッチン収納といえば調味料の棚を取り付けたくらい。あとは最近、夫が床下収納を作ってくれました」
どんなキッチンでも、道具が揃っていなくても、鍋一つでおいしい料理ができるのは家政婦という仕事のおかげ。その家にあるもので作るという方針を貫いているタサンさんだからこそのたくましさだ。家も同じ。ホームセンターなどの手頃な材料を使っても、自分らしく満足のいくものになる。
模様の入ったすりガラスの窓、キッチンの一部、玄関など手を加えていないところも多い。何を残して何を新しくするかは、直感に従って決めるそう。「古くて嫌だな」と感じれば取り換えるし、「古くて素敵だな」と思えば生かす。こうでなきゃいけないというルールや常識にとらわれないのも、DIYを楽しむコツかもしれない。
どこもすっかり居心地よく整えられたように見えるが、実はまだ手つかずの場所がいくつかある。2階の子ども部屋もその一つ。
「今のところは床にとりあえず絨毯を敷いて、壁を白く塗っただけの状態。これから子どもたちが成長したら、それぞれの好みも出てくると思うので、彼らが喜ぶような部屋を一緒に考えて作っていくつもりです」
家族の成長、生活の変化に合わせて、いかようにも作り変えられる余白を残す。タサンさんは、そんな自由さをいちばん大切にしていると話す。のんびりペースの家づくりは「永遠に終わらない気がします(笑)」。
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